確かに生きている!<2>

    波の音?

    少し違う?

    規則正しく 脈打つこれは

    愛する人が生きている証。

    風の音?

    いや 嵐はもう過ぎ去ったのだろう。

    これは愛する人が安らいでいる証。

    夢の中なのか 現実なのか そのはざまで 
    覚醒するのをおそれるかのように
    オスカルはまた静かに彼のぬくもりの中に潜り込んだ。

    割られたガラス戸から朝の光が衝立を飛び越えて二人の上に注ぐ。
    朝の光はなんと偉大なのだろう。その光の中ではこの荒廃した部屋の中でさえ
    何か輝きを感じずにはいられない。

    ふと 鳥のさえずりのする方に目をやれば 
    まだ薄青く ほんのり端に暖色を残す空をつがいの鳥が渡っている。

    「波の音が聞こえる…」
    「ああ…ここはノルマンディーだからな。ここに着いてからずっと聞こえている」
    起き出した恋人はせっかちに 夕べ満たされなかった想いを彼女に向けてきた。

    アンドレの唇が首を伝いデコルテのくぼみに達すると 
    彼の指は脈うつ心音を確かめるように胸のしたに添えられ、
    そこからゆっくりと腹部に降りていき愛おしげにやわらかな曲線を撫ぜた。

    確かに生きている!

    二人はそれを互いの体で確かめ合う。

    確かに生きている!

    脈を確かめ 愛おしむように 手首の内側に彼の唇が当てられる。

    確かに生きている!

    気遣うように後ろから突かれながら奥深いところで感じる。
    生きている実感は二人に新たな力を与えた。

    「長居は出来ないな」
    名残惜しげにアンドレは呟いたが それは事実だ。
    こことて 安全でないことは一目でわかる。

    「ああ」
    けだるい体を無理に振るい立たせ ようやく乾いた衣服を身に着ける。

    ドーバー海峡を渡り イギリスに行きつくまでは安心はできない。
    もっとも それも絶対とは言えないのだが。
    オスカルは銃に弾薬を装填し 羽織った上着の内ポケットに忍ばせた。

    夕べ見つけた品を袋に詰め 肩に掛けたアンドレが彼女を振り返る。
    それをニヤリと受ける。
    「行くぞ アンドレ」
    オスカルの声は生気に満ちていた。

    二人は晴れあがった空の下 今日も生き抜くための一歩を踏み出す。
    嵐は過ぎ去っていたけれど その名残のように海はやや波が荒い。

    だいぶ離れてからオスカルは別荘を振り返った。
    もう豆粒ほどにしか見えないそれは 昔と変わりなく陽の光を白い壁に受けていた。
    先ほど見た光景が幻だったのではないかとオスカルには思えてならない。
    いや そうであってほしい。

    ここはいつでも楽しい場所だったのだから。

    姉上達と馬車を連ね 別荘に続く花咲く道に胸躍らせた。
    アンドレと砂に足を取られながら駆け回り
    成長してからは馬で競争した。 
    そして いつしか姉上達に替わりロザリーが傍らにいてくれた。

    潮風の匂い それに揺れる青草のウェーブ 
    細い海岸への小道にはかつての二人のように
    袖と裾をまくり上げた男の子たちが駆け下りていく。

    何も 何も変わらないかのように見える。

    けれど 今朝見た別荘の光景は現実で 二人は国を追われている。

    何かを察したのかアンドレの手が物思いに沈むオスカルの肩にかかる。

    「いつか… いつか また 来よう。花咲く季節がいいな。
    オルタンス様が好きだったあの黄色い花の咲く頃」
    「ああ そうだな」

    だが そんな日はくるのだろうか?

    「おまえが男なら 仔馬を買って乗り方を教えてやる。
    女なら花の種をどっさり買って昔のような花畑を作ってやろう」
    アンドレがオスカルのお腹に語りかける。
    「アンドレ 女の子でも 花より馬が良いだろう」
    そっとお腹から見上げるように顔を向けると そこには柔らかく微笑む彼の妻がいた。
    「わたしとおまえの子ならば 男でも女でも… 三人でまたこの海岸を駆け抜けよう」
    「ああ…」

    先のことは 誰にもわからない けれど オスカルには笑いさざめきながら
    キラキラ輝く砂を巻きあげ駆け抜けていく3頭の白馬が見えた気がした。

    FIN

    「確かに生きている!」は今回で終了です。お読みいただきありがとうございました。

    スポンサーサイト

    Bon anniversaire!アンドレ

    今日はアンドレのお誕生日です。

    短めですが SSを一つUPしました。
    場面を切り取ったようなSSですが 他の作品との関連性はありません。
    全2回なので明日で終わりなのですが
    まとめて読みたい方はサイトに全文載せてありますので
    こちらの直通リンクからどうぞ。

    http://ryokufuseirin.web.fc2.com/tanpen/tasikaniikiteiru1.html

    それでは「確かに生きている!」スタートです。



    「波の音が聞こえる…」

    アンドレの腕の中で オスカルはぼんやりとつぶやいた。
    二人を包んでいる毛布を引き上げまき直しながら アンドレはクスッと笑った。
    「ああ… ここはノルマンディーだからな。ここに着いてからずっと聞こえている」
    「はは…言われてみればそうだな」
    オスカルも自分のおかしさに気がついて声を立てて笑った。

    「どうして 気がつかなかったのだろう?」
    返事の代わりに自分を抱きしめ 首筋にキスをし始めた恋人に彼女は答えを見出した。

    夕べ ずぶ濡れでここまでたどり着いた二人は 
    暗がりの中 なんとか乾いた薪と火打ち石を見つけ暖を取ることが出来た。
    赤々と火が燃え上がると 唇を真っ青にして震えているオスカルの衣服を脱がせ
    毛布でくるみ 毛皮のラフの上に座らせた。

    幸い台所にワインとチーズがわずかばかりあった。
    アンドレはワインを暖炉の火で温めオスカルに渡し 今度はチーズをあぶり 
    持参した袋の奥でどうにか濡れずに済んだパンの上に落とした。

    それを食すといくらか血色の戻ったオスカルは 倒れるように寝込んでしまった。
    彼女の頭の下にクッションをあてがい 毛布を掛け直し 
    鍵の閉まらない扉の前にテーブルとイスを寄せてバリケード築き 
    雨の吹き込む窓とオスカルの間に衝立を立て倒れないように紐で括った。
    それらがすむとアンドレはこのジャルジェ家の別荘の中を調べ始めた。
    彼はまだ眠るわけにはいかない。

    略奪の跡はむごたらしいが 屋敷そのものは破壊を免れたようで 
    窓と扉がバキバキに壊されているだけで済んでいた。
    めぼしい調度品は持ち去られていたが 地下の食糧庫の隠し扉の奥には
    何本かの極上のワインが難を逃れていた。
    それを足元に転がっていた藤籠に入れると 地下から上がり 
    かつてジャルジェ将軍が使っていた書斎に向かった。
    そこにも隠し部屋があり 銃と弾薬、それに金細工の時計と翡翠のバングル 
    サファイヤとダイヤモンドのネックレスを手に入れることが出来た。

    オスカルのもとに戻ると アンドレはようやく彼女の横でパンとワインを頬張り 
    暖炉の火でまるで自分をあぶるように温め オスカルの毛布を開き 体を滑りこませた。

    眠りはすぐにおとずれた。この嵐の中ほとんど休まずにここまで来たのだ。
    いかに軍隊で鍛えたとはいえ疲れていないわけがない。

    (つづく)

    祝福に満ちた日

    「ベルサイユのばら」で「三ヶ日」と言えば

    『オスカルさまとアンドレが結ばれた日』
    『アンドレの命日』
    『オスカルさまの命日』

    の事なのだとはわかっているのですが

    私にとっては

    『オスカルさまとアンドレが結婚した日』
    『オスカルさまとアンドレが帰ることのない新婚旅行に旅立った日
     あるいは新居に入られた日』

    という感じで まさに ”祭” もしくは ”祝福にあふれた日” なのです。

    雑誌連載当時のファンではなく アニメから入った私は読む前から
    オスカルさまもアンドレも死ぬんだなと なんとなくわかっていました。

    だって 本屋さんに並んでるコミック8巻には
    「神にめされて・・・」って副題があるし
    表紙の絵もそれっぽいじゃありませんか(笑)

    だから オスカルさまとアンドレが亡くなったシーンを初めて読んだ時は
    ”やっぱり 死んじゃったんだ・・・”って感じで、それほど悲しくなかったのです。

    予想していなかったシーンに感動したのはその後でした。
    おそらく亡くなっているであろうばあやの上に
    アンドレと すっごく幸せで満足そうに微笑むオスカルさま。

    ”ああ 良かった! ちゃんとアンドレと再会して幸せなのですね!
     良かった 良かった おめでとうございます。オスカルさま アンドレ”

    まるで結婚式を見ているかのように胸が熱くなって 
    祝福の気持ちでいっぱいになりました。

    その初見のイメージが私の「三ヶ日」感になってしまって
    命日という、本来なら死者に想いを馳せて悼む日という感じが
    すっかり 無くなってしまったのです。

    今年もお二人が結ばれた記念の日をお祝いして
    「過去と未来のわたし」UPしました。

    革命を生き延び身も心も固く結ばれ、いい夫婦になられた
    42歳のオスカルさまと43歳のアンドレ君のお話です。

    あまりにおバカなお話ですので ブログでは連載せず サイトにだけ制限付きでUPします。
    そんなんでもみてやるかと おっしゃって下さる心の広い方は
    その他の一番上をご覧になるか、こちらの直通リンクからお入りください。

    http://ryokufuseirin.web.fc2.com/kakotomirainowatasi/kakotomirainowatasi1.html

    パスワードは

    ユーザー名:seirin
    パスワード:chocolat

    です。コピーして貼ると、エラーすることがあるようです。
    その時はお手数ですが直接入力してくださいね。

    華やかな葬式9

    "すまない アンドレ、わたしはまた 間違えてしまったのだな"

    アンドレの胸の中で 自分を取り戻したオスカルはやっと落ち着いて考えることが出来た。
    彼の怒りはもっともだ。彼はこの雪の中 ロザリーを探し回っていたというのに 
    わたしはフェルゼンのところに行っただけで帰って来てしまったのだから。

    まただ、また感傷的になって判断をあやまった。

    やはり、自然に忘れられる日など待ってはいられない。

    そんな日がくるのであれば もうとうにきていたはずだ。

    こんなに長い事 思い続けて いまさらそんな日がくるはずはないではないか。

    "やはり きちんと 自分でケリをつけなければ"

    冷えていたアンドレの体も次第に温まってきた。
    それと比して 彼の怒りも収まったようだ。

    今はただ 温かく自分を包んでくれる。

    この温もりがあれば 他になにがいるのだろう?

    『はっはっは やっぱり女だねえ
    センチメンタルに なんぞ なってるから
    ドジをふむのさ!』

    もう センチメンタルになんかならない。

    男として生きてきて、これからも男として生きていく。

    そのために、わたしはこの恋に決着をつけよう。
    女性としてのオスカル・フランソワを心の奥深く沈めてしまおう。
    わたしにはアンドレがいる。彼がいれば大丈夫だ。

    これ以上 周りを困らせないために 
    アンドレを守るためにも 自分はこの恋の幕引きをしよう。

    でなければ、わたしもいつか 愛の狂気におちてしまうかもしれない。
    思いが狂気の域に達する前に引き返せるうちに 終わらせてしまおう。

    今なら まだ 美しい思い出にできる。

    華やかに 優雅に 美しく この恋を思い出の中に埋葬しよう。

    たった 一度の わたしの恋だったのだから…

    翌週、オスカルは華麗なドレス姿で舞踏会に出かけた。

    長い 長い 片思いの葬列は装飾を施した豪奢な馬車に揺られていく。
    式場は煌びやかなシャンデリアに照らされ
    参列者は華やかに着飾り笑いさざめき、葬送曲は心躍るメヌエットであった。

    この葬儀に涙を流したのは オスカルただひとり。

    片思いの相手にも 幼馴染にも 妹のように親しく思っていた女性にさえ、
    一言も漏らすことなく 一人で抱え続けた想いを

    女としてのオスカル・フランソワを

    この時オスカルは胸の奥深く埋葬した。

    その泣き濡れるオスカルの心音の近くで 
    アンドレが自分の代わりにと持たせてくれた懐中時計が
    そっと寄り添うように時を刻んでいた。

    FIN 

    「華やかな葬式」は今回が最終回です。
    お読みいただきありがとうございました。

    華やかな葬式8

    ジャルジェ家に帰るとオスカルは出迎えたばあやにマントを渡した。
    「アンドレは?」
    「それが まだ 帰っていないのでございますよ」
    「そうか…」

    きりきり 痛んでいた胸が 今度はぽっかり空いたようになった。

    自室の暖炉の前のソファに深く座り、膝を抱えて火を見つめた。

    どうして、不安なのかわからない。

    男として生きてきた。

    これからもそうするだけのことではないか。

    『はっはっは やっぱり女だねえ
    センチメンタルに なんぞ なってるから
    ドジをふむのさ!』

    顔を組んだ腕の中に隠すようにして埋めた。

    「ただいま オスカル」

    アンドレの声にオスカルは隠れるように袖で顔を拭った。
    いつの間にか 泣いていたようだ。

    「どうだった…」
    声の調子から おそらくアンドレはロザリーを見つけられなかったのだろうとは
    予測が付いたが他に言うべき言葉がみつからない。
    「おれもダメだったよ。見つからなかった。
    パリの屋敷のみんなに手伝ってもらったんだけどね」
    「そうか」
    「オスカルはどこを探してたの。だれとも会わなかったみたいだけど」
    アンドレの声の調子がいつもと違う。まるで詰問するかのようだ。

    "怒っているのか?アンドレ なぜ?"

    「わたしは…」
    言いかけてピクリとした。そうだ、わたしは何故帰って来てしまったのだろう?
    まだ まだ 探すべき場所は有ったはずだ。
    「わたしはフェルゼンのところへ行った」
    アンドレは怒ったように自分を見ている。
    その目が怖くて つい 言い訳がましいことを口にしてしまう。
    「ほら フェルゼンとロザリーは知り合いだから」
    「それで 他には」
    「他って…」
    オスカルは言い淀んだ。
    「他はどこを探したんだ」
    「いや…」
    オスカルは目線を逸らして答えた。
    「そうか わかった じゃあおれはもう行く」
    アンドレはイライラして出て行こうとした。

    "いやだ! 一人にしないで"

    オスカルの胸が不安でいっぱいになる。

    けれど アンドレは怒っている。
    それでも 縋らずにはいられない。

    「…アンドレ…」

    アンドレはドアノブを回しかけた手を止めたが 返事をしてくれない。

    「アンドレ!」

    今度は強く呼び掛けた。彼は観念したように戻って来て、暖炉の薪を足し、火を起こした。
    それから ゆっくり自分の方を向いてくれた。

    オスカルの胸の穴が埋まっていく。

    そっと隣に座るアンドレから いつものオーディコロンが香る。
    その胸に顔を埋め目を瞑る。

    アンドレの手がそっと肩に掛けられる。

    それだけで

    たったそれだけで

    すぅと不安な気持ちが消えていく。

    (つづく)

    sidetitle最新記事sidetitle
    sidetitleプロフィールsidetitle

    青林

    Author:青林
    ”ベルサイユのばら”の二次創作サイトを作っています。ぜひ遊びに来て下さいね。

    青林サイトへ

    ただいま、コメントへのお返事は基本的にはしておりませんが、頂いたコメントは大切に読ませていただいています。ありがとうございます。

    sidetitleカレンダーsidetitle
    08 | 2017/09 | 10
    - - - - - 1 2
    3 4 5 6 7 8 9
    10 11 12 13 14 15 16
    17 18 19 20 21 22 23
    24 25 26 27 28 29 30
    sidetitleカテゴリsidetitle
    sidetitleリンクsidetitle
    sidetitle月別アーカイブsidetitle
    sidetitle検索フォームsidetitle
    sidetitleQRコードsidetitle
    QR