金の糸 -3-

    あれやこれや ばたばたしているうちに 結婚式の当日がやって来た。
    この日のオスカルとアンドレのブーケとブーケトニアは 白ばらとスマイラックス・アスパラガス。
    白ばらのオスカルを引き立てるように 爽やかなグリーンのスマイラックスが絡んでいる。
    まさにアンドレのように。

    このブーケを作ったのは 花屋ではなく庭師のレモンだ。
    彼もアンドレを子供の頃から良く知っている一人だ。
    一回り程年の違う彼はアンドレの良き兄貴だった。
    よく恋に悩んで庭で落ち込んでいたアンドレに声をかけてくれていた。

    「なあ アンドレ。好きならあきらめることないさ。
    気持ちにウソをついて生きたっていいことないだろ。
    おまえは変わらぬ愛を貫けばいいさ。このアスパラガスのように。
    この植物の花言葉は "普遍" そして "耐える恋" 」
    目の前のニョキニョキ生えた緑の植物をレモンはカマで刈り取った。
    「おいで ゆでてやるよ。」
    皮の固くなった手でレモンはアンドレを助け起こして 自分の庭師小屋に連れて行った。
    途中、香りの良いハーブもいくつか摘んでお茶にした。
    粗末ながらも綺麗に整頓されて居心地のいい この小屋をアンドレは好きだった。
    子供の頃オスカルと喧嘩した時なんかよく逃げ込んだ。でも、すぐオスカルに見つかって 
    二人でレモンのハーブティーをごちそうになったりした。
    青年になってからはアンドレの "心の逃げ場所" になっていた。

    ハーブティーとゆでアスパラ なんだかおかしな組み合わせだが
    不思議と違和感なく美味しく食べられた。レモンお手製のドレッシングのせいかもしれない。
    複数のハーブを混ぜ込んだそれは お屋敷のシェフも一目置くほどの味だ。

    もぐもぐ黙って食べるアンドレにレモンは
    「アスパラガスの花言葉 まだあるんだ。"勝利の確信" 頑張れアンドレ」
    アンドレは一瞬手を止めてレモンを見た。レモンはにこにこアンドレを見ていたが 
    アンドレはまた下を向いてもぐもぐ食べ始めた。
    「そうだ アンドレ これもアスパラガスの仲間なんだが」
    室内にあった つるの伸びた明るいグリーンの植物を手に取り
    「スマイラックス・アスパラガス 花言葉は "勝利"
    いつかおまえがこの恋に勝利したなら これを贈ろう。」
    そう言って笑った。それでもアンドレはまだ下を向いていた。

    「さあ おまえももう外に出ないとな。」
    そう言ってそのスマイラックスの鉢を外に出そうと レモンが小屋の戸を大きく開けた。
    とたん、爽やかな風が吹き込んできた。
    アンドレは思わず顔を上げて戸口の方を見た。日の光がまぶしい。

    「おれもそろそろ 仕事にもどらなきゃ。ごちそうさま レモン」
    鉢と格闘している彼に声をかけると アンドレはお屋敷の方に駆けだした。
    「おういつでも また来い!」
    アンドレは一度振り返り笑顔で手を振った。

    「まさか 本当に結婚しちまうとはね。」
    ふと目を庭に向けると駆け回る幼い二人が見える気がした。

    レモンが見ていたのはアンドレだけではなかった。
    オスカルもまたこの庭を愛して よく足を運んでいた。
    けれどオスカルが成人してしまうとアンドレとは違い 
    下働きのレモンはお嬢さまにおいそれと声をかけて
    自分の庭師小屋に呼ぶわけ訳にはいかなくなった。
    遠くでそっと見守っていると 時折、ひどく哀しい顔をなさっていることもあった。
    泣いているのではと思えるように肩を震わせていることも。
    あまりにおいたわしくて つい身分を忘れて声をかけようとすると 
    決まってアンドレが息せき切って駆けてくるのだ。

    その姿が見えるとオスカルは まるで迷子の子供が保護者を見つけたように安心した顔をする。

    "そうだ オスカルさまにはアンドレが必要なんだ"

    そう思う。愛する相手に必要とされているのなら たとえ結婚という形態はとれなくても 
    一生一緒に生きて行けばいい。いつかオスカルさまが自分の気持ちに気付いた時 
    その時には スマイラックス・アスパラガスを贈ろうと思っていた。

    「レモン いるかい?」

    ナタリーが庭師小屋に顔を出した。
    「あんたが欲しがっていた リボンこれでいいのかい?」
    光沢のある青いリボンを差し出す。
    「おお イメージぴったりだ。さすがはナタリー」
    嬉しそうにレモンはそれを受け取った。
    「はは 当然さ オスカルさまのブーケに使う青いリボンなら 
    オスカルさまの瞳に一番近い青に決まっているからね。」
    笑うナタリーの顔にはしわが出来ていた。
    けれどレモンの目には今もナタリーは初めてあった頃の十四の乙女に見える。
    彼女と二人きりの時は自分も少年に戻った気がする。
    「じゃあ 行くよ。あんたもしっかりやんな。」
    いつものように 手短に要件を済ますと もう戸口を出ていた。

    "やれやれ 禄に話もできやしない。"

    せっかちで 働き者のナタリーはいつも忙しそうだ。
    あれこれ仕事だけでなく 他人の世話まで焼いていて自分の事は後回し。
    だから恋人もいないままおばさんになってしまった。
    そんなナタリーばかり想っていたら 自分もいつの間にかおじさんになっていた。

    テーブルに置かれた包み。いつもナタリーが帰った後に気づくのだ。
    いったい、いつの間に置いたのだろう。中身はレモンの好物ばかり。
    ジンジャークッキーだったり ジャムだったり。今日はシナモンクッキーだった。
    若い頃はおれの事気にかけてくれてるんだと舞い上がったが 
    今は自分が特別なのではないと分かっている。

    アンドレに言った言葉は 自分にも当てはまる言葉。
    スマイラックス・アスパラガスは自分を励ますために いつも目につくところに置いている。

    今、手にした白ばらは オスカルさまが一番気に入っていらした品種。
    それを包み守るように蔓を絡めていく。
    そしてナタリーが用意してくれたリボンを幾重にも重ねバランスを取って広げ下に長く垂らした。
    それから今朝一番美しく誇らしく咲いた一輪を
    今作ったブーケとお揃いのブーケトニアに仕立てていく。 

    出来上がったそれを見てレモンは思った。

    "良かったな アンドレ。おれも腹を決めるか。"

    朝日の中で その白ばらはレモンを励ますように輝いていた。

    (つづく)
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