天使のくれた七日間ー9-

    オスカルの遺体の上でまだロザリーは泣いていた。
    オスカルはロザリーの肩を抱こうとしたがすり抜けた。
    (ロザリー・・・)
    オスカルが哀しげな声を出した。そう おれ達は死んだのだ。
    もう生きている人間にしてあげられることはないし してもいけないのだろう。
    アランがそっとロザリーの肩に手をかけた。ベルナールが駆け付けロザリーを抱きしめた。
    生きている人間は 生きている者同士で支え合うべきなのだ。オスカルの遺体も運ばれていった。
    アランがふとおれ達の方を見た。そのまま視線は空へと上がり

    「隊長 アンドレのやつは ちゃんと迎えにきましたか。どうかお幸せに」

    空に向かって敬礼した。そしてオスカルの剣を掴むと 
    きびすを返してバスティーユへと走って行った。
    魂組の何人かはアランに敬礼を返していた。
    (ありがとう・・・)
    オスカルはアランの背にささやいた。

    改めてまわりを見ると 元衛兵隊の死亡者は全員いることがわかった。
    気の良いやつらと思っていたが ひとりとして地獄へ落ちたやつはいなかったとは驚きだ。
    おれ達は結局生きている者も死んだ者も 全員でバスティーユの白旗を見ることが出来たのだ。
    アランが去ってしまうと おれ達魂組も天国での再会を約束して
    それぞれの思う人のところへと去って行った。

    (フランソワ ジャン)
    おれは二人に声をかけた。
    (すまなかった。おれの我が儘のために死なせてしまった。謝って済むことではないが)
    (なあ アンドレ。あの白旗さ。)
    フランソワが言った。
    (アンドレがおれ達と一緒に来てくれなかったら見られなかったんじゃないのかな。
    だって 隊長アンドレいないと ダメだろ。)
    (そ・そ・そうだよな。)
    とジャンも相槌を打つ。オスカルはムッとしていたが おれにしがみ付いているから何も言えない。

    (もちろん 市民の力 ベルナールみたいな革命家の力 色んな人の力を合わせて
    成し遂げられたんだけど。おれ達衛兵隊がまとまって参加するには 隊長の力が必要で 
    隊長にはアンドレが必要だったんだ。そして要塞を攻めるには大砲の威力が必要だった。
    扱えるのはおれ達兵士だ。)
    (う・・うん。ア・・アンドレがき・・き・・きてくれてよかった。)

    (それにおれ天使に言われた。天寿を全うしたって。
    生まれた時からおれはあそこで死ぬことになっていたんだ。)
    (お・・お・・おれもい・・いわれた。)
    フランソワとジャンの笑顔に アンドレは感涙していた。
    (ありがとう でもフランソワ大事な弟がいたんだろう。
    それにジャン 好きな子がいるって言っていたのに)
    (うん。おれ死んでから家族のところにいたんだ。今日も弟に付いてバスティーユに来た。
    あいつ ぼくは市民のために戦って死んだフランソワ・アルマンの弟だ。
    兄ちゃんの買ってくれた靴をはいて戦うって飛び出したんだ。
    まわりの大人に止められて実際は戦闘に参加しないで見ていたんだけどね。おれは大丈夫だと思う。
    おれがいなくても友愛に満ちた新しい世界で 逞しく生きて行ける気がするんだ。)
    (お・・おれ あの子 み・・みにいったら か・・彼氏できていてさ。だからいいんだ。)
    アンドレはなんて良いやつらなんだろうと思った。
    そして彼らもそれぞれの家族のところへ帰って行った。

    (おれ達も行こう。)
    アンドレは天使に教えてもらった瞬間移動を使った。

    ジャルジェ家は悲しみに満ちていた。昨日の朝 出たばかりなのに別の屋敷の様だった。
    何があったんだろう。オスカルの謀反のせいにしてはあまりに悲しみが深い。
    「アンドレ いいやつだったのに。」
    「マロンさんも可哀想についにひとりになってしまったわ。」
    もうおれが死んだことが伝わっているのか。だんなさまの情報網は凄いな。
    オスカルの事もじきに報告されるだろう。
    アンドレは屋敷の皆の悲しみが 自分のためとわかって胸が痛んだ。
    思えば八つの頃からここで育った。屋敷の同僚は皆家族みたいなものだ。
    ここはおれの家だったんだ。
    (ありがとうみんな・・・)
    アンドレは聞こえないとわかっていてもそう呼びかけた。

    そしてアンドレはオスカルの肖像画を見た。
    (軍神マルス しかも少年の・・・皆が騒いだはずだ。)
    あの時たった二日まえだ。どれほどこの絵が見たかったか。
    (皮肉なものだ。わたしが市民の側につくと決めていた時に あの頃の自分に会うなんて
    まだ 明るい未来だけを信じていて 
    アントワネットさまが王妃になられれば素晴らしい世の中になると 
    そしてわたしはこの類まれな美しい方をお守りするのだと  
    何の疑問も持たずに真っ直ぐに思っていた。)
    オスカルはそう言った。おれは何も言えなかった。ただおれはあの頃 
    おまえを愛している自分を持て余していたんだ。
    おまえは何も気づかなかっただろうけど。

    (さあ ばあやのところへ行こう。アンドレ)
    おばあちゃんのいる部屋に入る前からわかった。天使がいると。案の定ドアを開けると天使がいた。
    おれ達の担当天使と少し違い 真っ直ぐな髪は黄金の滝のようで 
    厳かな慈愛に満ち溢れた双眸をしていた。おばあちゃんの体が光り始めた。
    おれ達はおばあちゃんの後ろにまわった。天使の使命のじゃまをしてはならない。
    やがて、おばあちゃんの目が開かれた。
    (天使さま・・・)
    (よく頑張りましたね。マロン。おめでとう天国の扉はあなたに開かれました。
    神の試練を乗り越えあなたは天寿を全うされました。)
    (おお 天使さま ありがとうございます。神さまのお導きのおかげでございます。)
    おばあちゃんは深く天使にこうべを垂れた。天使は優しく微笑んでいる。
    (さあ 顔をおあげなさい。神のお恵みを伝えましょう。)
    天使が例の話をしている間 おれ達は黙って見ていた。
    おばあちゃんはおれ達に気づいていない。天使の話を真剣に聞いている。
    思えばこれが本来でおれもオスカルも ずいぶん天使に失礼な態度だったかもしれない。
    もっともおれ達の天使は 今目の前にいる天使と違って ずいぶんチャライやつだったが。

    (何か聞きたいことはありますか)
    天使の鈴のような声がした。
    (では 天使さまお教えくださいませ。アンドレは 孫のアンドレは天国に行けましたでしょうか。)
    おばあちゃん おれの事最後まで気遣ってくれるんだね。涙がぶわっとあふれてきた。
    天使は極上の笑みを浮かべ
    (ええ 彼にも天国の門は開かれました。今あなたの後ろで泣いておりますよ。)
    天使がおれ達の方へ手を差し伸べる。おばあちゃんが導かれるように振り返る。

    (アンドレ! まあお嬢さま!!)
    (おばあちゃん!)
    抱きつこうとしたが
    (このろくでなしの役たたず!!)
    思いきり蹴りを入れられた。
    (お嬢さまをお守りできなかったんだね。何のために付いて行ったんだい!!)
    おばあちゃんは泣き出した。
    (あーん お嬢さま こんなにお若くして死んでしまわれたなんて・・・)
    (泣かないで ばあや 約束したね。愛しているよ ばあや・・・ いつまでも・・・かぎりなく)
    (それは生きていてという意味でございます。
    だから軍などお辞めになれば良かったのでございますよ。)
    (まあ 死んでしまったのだから いまさらだ。それにばあや。
    アンドレはわたしを庇って死んだのだよ。わたしはアンドレのおかげで悔いなく戦えた。)
    (お嬢さま・・・)
    ばあやは両手で顔をおおって盛大に泣き出した。

    天使はクスクス笑って見ていたが
    (そろそろ わたしはいきますよ。それでは悔いのない七日間を)
    そう言って飛び立った。ばあやは手を合わせて見送った。

    (あれ 誰か来た。)
    部屋のドアが開いて 馴染みの丸っこい画家の先生が入ってきた。
    「こ…こ…こんにちは マロン・グラッセさん」
    花束抱えて先生はばあやの遺体に話しかけていたが 彼はやがて異常に気付いた。
    花が床に散らばった。老成の画家の目は触らなくともその死がわかったようだ。
    ばあやは画家に近づいたが 画家の瞳は遺体を見つめたままだ。
    床に散らばった花をばあやは拾おうとしたけれど手はすり抜けてしまう。

    (先生 ありがとう。夫が死んでから 訪れを心待ちにしたのはあなただけでしたよ。)

    ばあやは寂しげに画家に話しかけた。
    画家は静かに肩を落として部屋を後にした。人を呼びに行ったのだろう。
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    青林

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