エピソード6 考察ー7-オキザリス<3>

    宿に戻ると じいやがつるっとした頭を真っ赤にして湯気が立ちそうな勢いで怒っていた。
    「若様!こんな時に 連絡も無しで どこにいらしていたのですか!」
    そう叫ぶと今度はみるみる涙を浮かべ
    「ご無事でなによりでした。じいの寿命をあまり縮めないでいただきたい」
    そう小さく言った。
    「すまなかった じい」
    レニエは素直にあやまった。今は極秘任務中。自分だけではない。
    各国がここにそういう人間を送り込んでいるのだ。
    自分の帰宅が遅れれば最悪の事態にまで考えが及んでしまう。
    レニエはじいやを気遣いながら 部屋へと続く階段を上がった。

    翌日もレニエは宮廷に出かけた。彼の容貌は小さな宮廷では目立ちすぎてしまうが
    同時に おいそれと詮索の声をかけるのを ためらわせるものもあった。

    変にこそこそすればかえって悪目立ちする。
    レニエは堂々とふるまった。何も悪いことはしてはいない。

    ともかくも 今滞在中とやらの 皇女さまを調べてみるか。
    いくらなんでも ハプスブルグ家とロレーヌ公国では 格が違いすぎる。
    どこまで本気なのか。この辺りに打開の糸口があるかもしれない。

    さすがに王族のプライベートエリアは 見とがめられる危険がある。
    レニエは庭伝いに 持前の運動神経を駆使して奥に侵入した。
    今は優雅な宮廷貴族風を装っているが
    彼は本来生粋の軍人なのだ。

    木立の間 木々の縁に縁どられるように 二人はあった。
    気配を殺して レニエは近づいたが その必要がないくらい 
    彼らには お互いしか見えていないようであった。

    美しいと思った。
    今まで男女が睦みあうのは 動物的で好きではなかった。

    けれど 彼らは違った。

    純粋で 清らかで 神聖にさえ思えた。

    レニエはそっと 気配を殺したままその場を離れた。
    いつもは冷静な自分が動揺しているのが分かる。

    「ジョルジェット・・・」
    何故その名を呟いたのか分からない。
    ただ 無償に彼女に会いたい。

    「すまないが 先に宿に帰っていてくれ」
    夕刻近くにレニエはじいやにそう言った。
    「なぜでございます?昨日は一人で集中して祈りたいからとおっしゃるから
     お別れしましたが あまりに遅いので教会に行ってみれば どこにもいらっしゃらない。
     いったい何をしておいでです?」
    「うっ えっと・・・」
    レニエは視線を泳がした。昨日のことがあるからじいやはなかなか納得してくれないだろう。
    だが、もし女と会っているなどといえば 大変な騒ぎになるのは目に見えている。
    まだジョルジェットとの愛は始まったばかりなのだ。
    いましばらくはお互いの気持ちを確かめ合いたい。

    腹を据えてレニエはじいやに話した。
    「じい 今はまだ何も言えないが 決してやましいことはしていない。
     お願いだ。少し時間をくれないか」
    真剣なレニエの態度にじいやは不安ながらも承知してくれた。

    じいやと別れ レニエは昨日の場所へと急いだ。日暮れまであまり時間はない。
    木々の間を飛ぶようにすり抜けた。うっそうとした木々が突然開け 明るい場所に出た。 

    その開けた光の中にジョルジェットは待っていてくれた。
    自分を認めると走り寄って来てくれた。レニエは両手を広げて彼女を向かえ入れる。

    「ずっと待っていてくれたのか」
    しっかり抱きとめながら レニエは胸がいっぱいになってしまった。

    “不思議だ・・・出会ってさほど経ってはいないというのに、
     もうずっと以前から知っているような気がする。”

    同じことをジョルジェットも感じていた。

    そっと 抱きしめていた腕を緩め レニエはジョルジェットの顔を大きな手で包む。
    澄んだ瞳に自分が映る。顔を寄せるとその目は閉じられ 
    自分を受け入れてくれるのだと分かる。

    それでも、その小さな唇に触れると 彼女は微かに震えていた・・・

    まだ これ以上のことをするのはためらわれた。
    自分は本名すら明かしてはいないのだから・・・

    触れるだけのキスをして レニエは彼女を抱くように座った。
    小さな肩に引き寄せるように腕を回し その耳元で囁く。

    「いい匂いがする・・・」
    「きっと この花たちのせいですわ。」
    「花?」

    「ええ ほら・・・」
    ジョルジェットが体を少し離し 地面に手を添える。
    見れば彼女の手の中には小さな花が咲いていた。
    「こんなところに花が咲いていたのか・・・」
    気づけば 草の間に間に 沢山咲いていた。何故気づかなかったのか不思議なくらいだ。
    驚くレニエの様子に ジョルジェットは少し笑った。
    「きれいでしょ なのにいつもは忘れ去られているのです。
     野に咲く名も無い花。けれどわたしはこんな花が好き。」

    自然の情景に溶け込んで その存在を主張したりはしないけれど 
    確かにそこにあり そこにあることで 世界に彩りを添えている。
    気づかれなくても それは 確実に人々の心に知らず知らず潤いを与えているのだろう。

    “あなたもそうだ・・・”

    花を愛おしそうに眺めるジョルジェットの横顔にレニエは思う。
    華美な化粧も衣裳も身に着けず 清楚な佇まい。

    「けれど わたしは ちゃんと見つけた。」
    唐突なレニエの言葉に ジョルジェットは彼を仰ぎ見る。
    「あなたという花を」
    ただ 自分を驚いたようにみつめる顔が黄金色に染まる 夕闇が迫っている。

    「帰らなければ・・・」
    レニエの言葉にジョルジェットの瞳が潤む。そんな姿が愛しい。
    「大丈夫。また会える」
    それでも、ジョルジェットの瞳からは涙が零れてしまった。
    それをレニエは指で撫ぜるように拭いて
    「すぐに また会おう」
    そう言って笑った。ようやくジョルジェットの顔に微笑みが戻った。

    世界が束の間の 黄金色に染まる。走り去る彼女を見送りながら レニエの心は痛かった。
    きちんと 自分の正体を明かして 彼女のご家族に認めてもらいたい。
    そうすれば彼女をちゃんと家まで送ってあげられるのに。

    ガルティエではなく レニエと呼んでほしい。
    昼間の彼らのように愛し合いたい。

    姿が見えなくなるまで見送って レニエも宿まで走り出した。
    またじいやがやきもきしているだろう。

    (つづく)
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