エピソード6 考察ー8-オキザリス<4>

    「若様!大変でございます。」
    レニエの姿を認めるとじいやは叫んだ。
    宿の前には 馬車が用意されいて すでに荷物が積みこまれている。
    「これは どうしたのだ?」
    「詳しい話は馬車の中で ともかくお乗りください」
    「そうはいくか 事情を話せ」
    「旦那さまが お父上さまが大けがをされたのでございます。」
    「父上が?!」
    「お命に係わるほどだとか 一刻も早く帰国せよとのことでございます。
     すでに国王陛下の許可も出ております」
    そう言うとじいやはレニエを馬車の中に押し込んだ。

    走り出す馬車の中で レニエはさほど心配はしていなかった。
    あの頑健な父上がそう簡単に逝くはずがないと思えたのだ。

    クレメンス王子の喪が明けるまでにはまだ時間がある。
    そう考えたからこそ国王陛下も帰国を許されたのだ。
    いい機会だ。父上にジョルジェットのことを話しておこう。
    まだ名前しか知らないが 自分には心に決めた人がいるのだと。そしてすぐに戻ってこよう。

    すぐに また会おう と約束したのだから。

    けれど レニエのこの読みは はずれてしまう。
    父の怪我はかなりの深手で レニエが帰った時には 意識が白濁としていた。
    それでもいく日かは生きていて 時折、レニエと言葉を交わすことができた。

    夜中激しく窓を叩いていた雨が止み 朝日が昇り輝く中 
    父は息子の手を握り 満足気に微笑みながら 旅立った。
    その大きな手をレニエはいつまでも握り閉めて泣いた。

    父が亡くなるとレニエは国王に謁見し
    まずは此度の恩情ある王の配慮に礼を述べた。

    「そなたの調査報告書は読んだ。この婚姻 我が国にも利有りとのことだったな。」
    「さようでございます。陛下。
     あのハプスブルグ家が大事な跡継ぎである姫を
     わざわざロレーヌ公国などという小国の王にくれてやろうというのです。
     我が国とすれば歓迎すべきではありませんか。
     もし彼女がもっと強力な伴侶を得ましたなら 
     必ずや我がフランスの大きな敵となりましょう」
    「ふむ・・・」
    王は考え込んでいる。レニエはここで引くわけにはいかない。
    ルイ15世にはお子が沢山いる。
    まだ幼いとはいえ 王族の結婚は契約なのだから問題ではない。
    その子らをそれぞれ フランソワ王子とテレジア王女にあてがえばいいのだと
    気付かれてはならない。

    「マリア・テレジア皇女は大変利発な方でございます。」
    「そのようだな。ことのほか愛らしく 市民に人気が高いと聞く」
    「しかしながら いかに賢いとはいえ 所詮は女。
     恋に目がくらんでいるうちは何の脅威にもなりますまい。」
    「ふふ・・・そして 夢から覚めたら 隣には能無しの亭主がというわけか」
    「御意」
    「しかし、あそこは土地の利もあり 鉄鉱石や石炭も取れる。
     むざむざハプスブルグ家にくれてやるわけにはいかぬ。」
    「代わりの地を用意されては いかがでしょう。」
    「なるほど。フランソワ王子はどのみち オーストリアに赴くことになるのだから 
     ロレーヌにさほど未練はあるまい」
    王の言葉にレニエはピクリ・・・とした。
    だが 
    「陛下。武力を持って 従えては後々の遺恨となりましょう。
     わたしにお任せいただければ 無傷にてかの地を王に差し上げることができます。」
    「自信があるのだな。ジャルジェ伯爵」
    「はい。」
    「よかろう。やってみるがいい。ただし余はそれほど気が長いわけではない。」
    「必ずや 成し遂げてご覧にいれます。」
    レニエは優雅にこうべを垂れた。

    王の部屋を辞したレニエの顔は青ざめていた。

    ”本当に これで良かったのだろうか?”

    王のロレーヌへの執着は分かっている。
    今のフランス軍の力を持ってすれば すぐにでも手に入れることが出来る。
    オーストリア軍も今はかなり弱体化していて 加勢したところでものの数ではない。

    勝てる戦なのだ。あきらめるはずがない。
    あと必要なのは 大義名分。
    いかにルイと言えど 野心のままに侵略すればその名に傷がつく。

    だが ハプスブルグ家に取られるとなれば話は別だ。
    王はためらいもなく あの美しい地を踏みにじり 侵略するだろう。
    それは何としても止めなければならない。

    レニエはあの美しい地に思いを馳せる。
    緑なす大地。 そこに暮らす人々。
    彼らは幸福そうに暮らしていた。
    フランソワ王子の一族が善政を布いていた証拠である。

    ”我がフランスとは大違いだ。”

    今フランスの民が圧政に苦しんでいる現状をレニエは知っている。

    愛しておられるのだろう フランソワ王子はロレーヌを。
    それをわたしは奪い取る進言をしているのだ。

    フランスのためを思えば ルイ15世陛下のお子たちとの縁組こそが
    最良の手なのかもしれない。

    けれど フランソワ王子とテレジア皇女のあの姿を見た後では
    とてもそんな気にはなれない。
    まして 人を愛するということを知ってしまった今は。

    お二人の愛を守り ロレーヌ公国を戦火から救うにはこれしかないのだ。

    ”本当に そうなのか? まだ 道はあるのではないか?
     自分が気づいていないだけなのではないのか?”

    レニエは自分に課せられている 事の重大さに押しつぶされそうだった。 
    若い自分の肩に一国の運命がかかっている。
    それだけではない、戦いとなればいかに勝ち戦とはいえ、
    我がフランス軍にも死傷者が出るだろう。

    ”ジョルジェット あなたの国は必ず守ってみせる。”

    胸に手を当てて彼女のぬくもりを思い出す。
    あたたかかった。それは限りなく あたたかった。

    (つづく)

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