羽と剣 <2>

    「嫌です。海軍には行きません。陸軍に志願致します。」
    ヴィクトールは屋敷に着くなり 父にきっぱりそう告げた。
    父ジェローデル伯爵はわなわな震えていた。
    「そんな事が出来ると思っているのか。
    代々 海軍の勇を誇るわがジェローデル家の子でありながら・・・」
    「父上は"そろそろ ベルサイユに戻って軍人に"とは申されましたが
    海軍にとはおっしゃいませんでした。」
    「言わずとも わかるであろう。」
    「なんと申されようとも わたくしは海軍には参りません。」
    微動だにしないすみれの瞳に 伯爵は怯んだ。
    そうヴィクトールに怯んだのではなく "すみれの瞳"に。
    「とにかく おまえは海軍に行くのだ。逆らうことは許さん。」
    顔を見ないようにして 言い捨てるように言うと 父は部屋を出て行った。

    "こんな 家出てやる。"

    ヴィクトールは決めた。もともと領地に忘れ去られていた自分だ。
    アルベール兄上に子供が出来て 田舎に預ける事になったから 
    急に父上は自分の事を思い出したに過ぎない。

    「ヴィクトール」
    ふいに声を掛けられた。アルベール兄上が青い顔をして立っていた。
    「ヴィクトール」
    兄はもう一度 声をかけると ヴィクトールの隣に椅子を寄せた。
    「そんなに海軍は嫌か?」
    「嫌です。ついでに父上もあなたも嫌いです。」

    言ってから 胸がズキンとした。

    「陸軍に伝手はあるのか?」
    「コネなど 必要ありません。わたくしは剣も兵法も修めました。」
    「見せてもらおう。」
    そう言うとアルベールは立ち上がり ヴィクトールを庭に誘った。

    剣を構えるとそれだけで アルベールはいつもより大きく見えた。
    いつも長身の兄は少しかがんで自分を見てくれた。
    それがスラリと背を伸ばし 斜めに細見の剣を構えた姿はまるで優雅な鷲の様で
    どこから 切りかかればいいのかわからない。

    「どうした?ヴィクトール。」
    兄の嘲笑するような声にカッとなり
    「ヤーッ」
    やみくもに突っ込んだ。スルリとかわされすれ違いざま 
    骨が砕けるかと思うほど 強かに剣の握りで手を打たれた。

    カラン・・・

    剣の落ちた音が空洞になった自分の体内に響くかのようだ。

    「おまえは 強いヴィクトール だがわたしはもっと強い。」
    兄は魂が抜けたようになった弟を抱き上げて
    「そしてわたしより 強い者も沢山いる。おまえはまだ 未熟だ。」
    ヴィクトールは黙っている。手の甲はまだジンジンしている。
    目の縁に溜まった涙がこぼれやしないか はらはらした。
    「だから おまえがそれほど嫌なら わたしが何とかするから どこへも行くな。」
    そう言って弟の顔を覗きこんだアルベールはいつもの優しい顔だった。

    結局 ヴィクトールの勤務先は近衛に決まった。
    後から思えば親に逆らうなど下手をすれば身の破滅になりかねないことだったのだ。
    けれどまだ若く世間知らずのヴィクトールにはそれが分からなかった。

    アルベールは上手く父を説得してくれた。
    「王のおそば近く仕える近衛なら 我が家にとってもいい話ではありませんか。」
    と説得したらしい。実は王太子殿下が海軍に並々ならぬ興味をお持ちとの情報もあり 
    陸軍に遅れを取っている海軍の増強に有利に働くのではないかと吹き込んだようだ。

    やがて ヴィクトールは近衛の入隊を済ませ 父や兄の休暇も終わりそれぞれの任地へ戻った。

    そして 事件は起こった。

    (つづく)
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