羽と剣 <8>

    ジルベールよりも先にたったアルベールもまだ馬上にあった。
    予定よりだいぶ遅くなってしまった。
    それでもアルベールの心は晴れやかだった。

    いつも苦い思いで想い出していたあの日を 今はやっと過去にできた。

    あの日 領地からベルサイユの父のもとに帰る日 小さなヴィクトールは泣いていた。

    「おおにぃ どこにいくの」
    皆の雰囲気から 分かってしまったらしい。自分に抱きついて不安げに顔を見上げてくる。
    「おおにぃと ちいにぃは ベルサイユの父上の所へ行くんだ。」
    返事に詰まっていると 横からジルベールがあっさりばらした。

    「ヴィクもいくんだよね。」
    キャッキャッとアルベールの手を掴んで振り回す。
    「行かないよ ヴィクはここに残るんだ。」
    ジルベールが言うのをアルベールは顔を覆いたい気持ちで聞いた。
    けれど両手を掴まれているので出来ない。
    「ヴィクはいかないの。じゃあ にぃたちはよるには かえる?」
    「帰らないよ。ずっと」
    「ずっと・・・ヴィクは・・・ねえ おおにぃ ヴィクは・・・」
    大きなすみれの瞳に涙が溜まり始めた。
    「ねぇ・・おおにぃ・・・」
    何も言わないアルベールと 喚きだしたヴィクトールにジルベールはイライラして
    「わからないやつだな。ヴィクはここにいればいいんだ。ベルサイユには連れて行かない!」
    ヴィクトールは怒鳴られてびくんと肩を上げた。

    「ジルベール!」
    それまで黙っていたアルベールが声をあげた。
    「なんだよ。兄上。ぼくは間違ったことは言ってない。」
    ジルベールも泣きそうだ。
    「んぇ・・・うぇ・・」
    とうとうヴィクトールは泣き出した。釣られてジルベールも盛大に泣き出した。
    アルベールも泣きそうになって 
    「ふぅぇ・・・」
    と口元が緩んでヴィクトールを抱きしめようとした時
    泣き声を聞きつけて乳母達が駆け付け ヴィクトールを取られてしまった。

    乳母の腕の中でヴィクトールは大暴れして騒いでいる。
    「ヴィクも!ヴィクも!」
    「さあ さあ ヴィクトール坊ちゃま。お外へ行きましょうね。」
    ジルベールも別の乳母に連れて行かれた。
    「アルベールさま お支度を」
    アルベールも泣きたかったが 泣くタイミングを逃してしまった。

    荷物の積み込みも着替えも済んだ頃には ジルベールはもうケロッと泣き止んで 
    馬車の中で足をぶらぶらしていた。
    横に座った乳母に飴をねだって ベルサイユの話をせがんでいる。

    「少し 待っててくれ。」
    アルベールは2段飛ばしに階段を駆け上り ノックもせず急いで子供部屋に入った。
    中にいたヴィクトールの乳母は驚いて小声で窘めた。
    「これは アルベールさま。どうなされました。
    そんなに乱暴にされてはヴィクトールさまが起きてしまわれます。」
    「ヴィクは寝てるの・・・」
    寂しげにアルベールはベッドに近寄ると ヴィクトールの顔を覗いた。
    その天使の頬には涙の痕がうっすらあり 
    少し開いた口元からは今にも 自分を非難する言葉が飛び出しそうな気がした。

    「さあさあ、アルベールさまもう行かれませんと。
    大丈夫。ヴィクトールさまは私どもがちゃんとお世話致します。」
    「うん・・・」
    アルベールは乳母に背中を押され部屋を出た。

    俯いて歩いていたが ふいに走り出した。
    急いでエントランスに戻ると自分が乗る馬車ではなく 
    後ろの荷物を沢山積んだ馬車に駆けより荷を解いた。
    「アルベールさま 何をなさいます?」
    驚いてアルベール付きのじいやが尋ねた。
    「ごめんね。じいや もうちょっと待ってて!」
    急いで 中からクマのぬいぐるみを引っ張り出すとまた屋敷に戻った。

    ヴィクの部屋のドアを今度はそっと開けて中に入ると ヴィクの寝ている横にクマを置いた。

    "ぼくの代わりにヴィクをお願い"

    そう心の中で言いながら。
    そのクマはアルベールの初めての友達だった。

    (つづく)
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