羽と剣 <10>

    "あれから 半年。ヴィクトールはどうしているだろう"

    時々届く ヴィクトールのじいやからの手紙には 
    元気でイキイキと過ごしている様子が書かれていたが
    アルベールはずっと心配していた。
    ようやく領地を視察する父に同行してジェローデル村に行くことになった。

    たった半年なのに村の風景はひどく懐かしく感じられた。
    空気が澄んでいて 何もかもが清らかに感じられる。
    時間がベルサイユよりゆっくり流れている気がした。

    アルベールは屋敷に着くと着替えもせず 
    ヴィクトールの好きそうな綺麗な挿絵のいっぱい入ったいくつかの本とお菓子を持って 
    ヴィクトールの部屋に向かった。

    "てっきり玄関まで出迎えてくれると思ったのに ヴィクのやつまだ拗ねてるのかな?"

    それでも このお土産を見たら 機嫌を直してくれるだろう。また あの可愛い声で

    "おおにぃ"

    って呼んでくれるだろう。そしたら沢山本を読んであげよう。
    ヴィクの好きな手遊びにも飽きるまで付き合ってやろう。

    「ヴィク ただいま!」
    アルベールはドアをノックすると返事を待たずに飛び込んだ。

    「だれ?」

    ヴィクはまるで"知らない人"を見る目をしていた。傍らの乳母が
    「坊ちゃまのお兄さまですよ。」
    そう教えた。
    「ふーん。」
    ヴィクトールはそう言うとアルベールには興味が無いと言うように 
    また クマのぬいぐるみで遊び始めた。

    「アル アル・・・」
    ヴィクトールはぬいぐるみのクマにそう呼びかけて楽しそうにしている。
    アルベールは混乱してしまって 動けなくなった。

    「アルベールさま」
    「ああ・・・ヤンじいか・・・」
    虚ろな目を後から部屋に入って来たヴィクトールのじいやに向けた。
    「お出迎えに参りませんで申し訳ありません。」
    「いや いいんだ。ああそうだ。いつも手紙をありがとう。ヴィクは元気そうだね。」
    「はい。お健やかにお過ごしです。」
    アルベールはもう一度きゃっきゃっとぬいぐるみと遊ぶヴィクトールを見つめ 
    静かに持っていた本とお菓子をテーブルに置いた。
    「ヤンじい 後でこれをヴィクトールに。」
    「かしこまりました。」
    そっと部屋を出て後ろ手でドアを閉めた。中からヴィクトールの声がする。
    「アル アル おいで」
    それは自分の名ではなくクマの名前。泣きたい。でも自分は次期当主。唇を噛んで堪える。

    "おおにぃって また呼んでくれると思っていた。小さな手を伸ばして。
    寂しい思いをさせてごめんねって謝ろうと思っていた。

    たった半年で忘れちゃうなんて思わなかったよ!!"

    ぽろぽろ・・・涙がこぼれてもアルベールは拭わなかった。

    だって 自分が泣いてるはずはないんだから・・・

    それから何度か領地を訪ねた。初めはいく度に知らない顔をされたが 
    大きくなるに連れて顔を憶えられた。けれどそれは好意的なものではなかった。

    睨みつけるような顔で
    「ごきげんよう兄上。ご健勝そうで何よりです。」
    そう儀礼的に答えるのだった。

    "胸が苦しいよ。ヴィク。どうしてかな?

    ぼくが君を置いてきぼりにした罰かなぁ・・・

    それとも ぼくが忘れられてしまったからかなぁ・・・"

    それでもアルベールは元気で明るく育っているヴィクトールをみるとほっとした。
    自分には向けてもらえないけれど ヴィクトールは屈託のない笑顔をした。
    うらやましいほど 村人や屋敷の者に可愛がられていた。

    静かな田舎で穏やかに暮らす三男坊。村の子供達と駆け回る姿をアルベールは窓から眺めた。

    できればこのままにしておいてあげたいとさえ思った。
    けれど彼とてジェローデル家の嫡男。そうはいかなかったのだ。

    "もうすぐ港だ。"

    ベルサイユから長距離駆けてきたアルベールは 潮の香で長い物思いから醒めた。

    "次の休暇の時は また三人で楽しく過ごせるよな。ヴィクトール ジルベール"

    アルベールはそれ!と馬を急かせた。
    空は限りなく青く その下にさらに青い海が広がり
    その間に彼の艦が白い帆を煌めかせていた。

    彼の旗艦の名は"ヴィクトワール号"勝利の女神と言う意味である。

    FIN

    「羽と剣」はこれで終了です。お読みいただきありがとうございました。
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