兄上<5>

    その日もルイはアンドレの傍らに立った。
    いつも控えめに主人に寄り添う従僕の立つ場所は 少しはなれているが声も聞こえ 
    守るべき人がよく見える場所だった。
    最近ではルイが近寄ってもアンドレは軽く会釈するだけでまた前を見る。
    ルイもそれに頷くだけで彼と同じ方を向く。

    まだ少年の二人。同い年という以外は違いすぎる境遇の二人。
    けれど二人とも物静かで優し過ぎるくらい優しかった。そして一途に生涯ただ一人を愛した。

    初めは兄の面影をアンドレに見ていたルイだが 
    しだいに別の共感めいた気持ちがうまれていた。
    それはアンドレも同じだった。二人で同じ場所にいて同じ想いを抱えて
    一人では切なくなりそうな景色を ともにながめているせいなのかもしれない。

    それぞれの想い人とは それぞれの抱える事情により微妙な距離感があった。
    自分には過ぎた美しい人を愛してしまった。
    そしてこの後 美しい人たちは奇しくも 同じ男性を愛してしまう。
    とても美しく 彼女らと並んで立つにふさわしい美貌の若者を。

    けれど結局彼女らと本当の夫婦になるのはこの若者ではなかった。
    ルイとアンドレはいずれ それぞれの想い人と本当の夫婦になることが出来たが 
    革命の渦の中 それぞれの想い人を愛するが故に 命を落とすことになってしまう。

    けれどそれはまだ先のお話。
    今はただ未来が不安で芽生えた気持ちを 
    どうしていいかわからないでいる少年たちに過ぎない。

    王太子であろうと従僕であろうと 
    男の子が可愛い女の子を好きになるのは自然で当たり前のこと。
    それなのにこの二人は年より重いものを背負っていた。
    だから時折二人でそっと寄り添うのかもしれない。

    美しい少女たちはそんな彼らの気持ちを知ってか知らずか 無邪気な微笑みを彼らに向ける。
    そして優美な声と仕草で彼らを呼ぶ。

    ベルサイユの空は晴れ渡って 庭園は花で満ち溢れていた。
    まだあどけない彼らの上を2匹の蝶がひらひら飛んでいた。

    後にルイ16世は自分の長男に"ルイ・ジョゼフ・グザビエ"と名付けた。
    それは兄と同じ名だった。

    FIN

    「兄上」はこれで 終了です。 お読みくださりありがとうございました。
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    〝兄弟〟の思い

    青林さま、こんにちは。
    宮廷内には弟達がいましたが、次期国王になる自分とは違う→王座を狙っているとまでは思っていないとは思いますが、距離を感じていたのでしょうか。想い人を守る、まだ気付いてもらえない自分の気持ちと、アンドレの気持ちを重ねあわせていたのかしら。このお話を読んで、ルイとアンドレの間には本当の兄弟のような、友情以上の思いがあったのではと思いました。

    Re: 〝兄弟〟の思い

    ぱんださま 作品の感想ありがとうございます。

    ルイにとってこの作品に出てくる兄ルイ・ジョゼフは特別な存在であったようです。幼いころから兄を愛し 兄もまた死の床にあって 隣室で臥せっている弟ルイの様子を苦しい息の中、3回も尋ねています。

    兄が亡くなってから プロヴァンス伯が一緒に教育を受けることになりますが、彼はルイとは違い 一歳しか違わない兄ルイにライバル心を抱いていました。

    アルトワ伯とは 性格があまりに違い過ぎました。快楽と贅を好み、その軽率な行動にルイは悩まされます。

    それでもルイは二人の弟達を大切に思い“国王陛下”ではなく“兄上”と呼んでかまわないとしました。けれどそれは彼らに感謝の気持ちを抱かせるよりは 王を軽んずるものになってしまったようですが。

    弟達とに限らず 心から打ち解けて話せる友人のいなかったルイが 比較的信頼をよせたのは 献身的な従僕であった 部屋付き侍従長のティエリ―でした。

    そんなルイとアンドレの間に芽生えた思いは ぱんださまのおっしゃるような感じだったとわたしも思います。一見似てないようで 意外と共通点がある二人なんですよね。

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    青林

    Author:青林
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