袖すり合うも多生の縁<2>

    帰りの車中、アントワネットがぽつりと言い始めた。
    「お母様から言われたのです。隣国の王子ルイ殿下との婚姻の話が出ていると。」
    オスカルの柳眉がぴくりと上がった。
    「あなたは 知っていたのでしょう。オスカル」
    「まだ 決定したわけではございません。」

    アントワネットはそっと目を閉じた。その目から一筋の涙が零れる。
    「結婚…当たり前のことですのにね。」
    アントワネットは窓の外に顔を向けた。けれどその大きな瞳は 
    流れて行く車窓の景色を鏡のように映しているだけのようであった。
    「もうわたくしも いい年ですもの。あ…あ!!けれど けれど どうしても 苦しくて 
    帰国が近づくにつれて 怖くて 逃げ出してしまいたかった!」
    おぉぉ… 泣き崩れるアントワネットにオスカルがハンカチを差し出すと 
    姫は静かに涙を拭った。

    オスカルは車の窓を開けた。ひんやり湿り気を帯びた夜風が車内に入る。
    アンドレが気分転換にカーラジオを付けると ビートルズが流れ始めた。
    「ストロベリーフィールズ・フォーエヴァー か…」
    オスカルが風に乱された黄金の髪をかき上げながら呟く。
    オレンジの街灯の光が その彫りの深い顔の陰影をより一層妖しく際立たせる。


    君を忘れないよ でももういかなきゃ ストロベリーフィールズに
    すべては夢 本物はなにもない
    ストロベリーフィールズ・フォーエヴァー 

    目を閉じて何も見なければ人生は容易だ
    一人前になるのは難しいけれど何とかなるさ 
    気にすることはないさ

    君を忘れないよ でももういかなきゃ ストロベリーフィールズに
    すべては夢 本物はなにもない
    ストロベリーフィールズ・フォーエヴァー 



    車は華やかなネオンの中を滑るように走り抜けていく。
    ネオンの残像がのびて糸を引くように 溜めた涙で曇るアントワネットの瞳には見えた。

    その後、何事もなく 姫様は"アン"から"プリンセス・アントワネット"に戻られ 
    ロンドンの霧が すべてを夢のように終わりにしてくれたはずだったのだが。

    帰国後、姫は言われたことだけをする人形のようになってしまわれた。
    そして、ぼんやりと空ばかり眺めていらっしゃるのだ。

    「あ…」 今も窓辺に腰かけ 空を見上げていた姫が 小さな吐息のような声を漏らされたので
    振り返ると 姫の見つめる先の空に つがいだろうか二匹の鳥がさえずりながら飛んでいた。

    それを見送り 姫の視線は膝に置かれた手元に落ちた。
    そして 先ほどとは違う 深いため息を付かれた。

    「大丈夫なのか?アントワネット様は」
    共に警護に当たっているアンドレがオスカルに問いかける。
    「大丈夫なわけないだろ。」
    「原因はやはり あいつか」
    「ああ たぶんな」
    二人は不安げな視線を姫に投げかけた。

    (つづく)
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