わたしの気持ちー4-

    チャンスはすぐにおとずれた。ベルナールを逃がす日がきたのだ。
    ことがことだけに 見送りはわたしとアンドレだけだ。
    ベルナールとロザリーが行ってしまうと 暗い道でふたりきりになれた。
    わたしは心を込めてアンドレに語りかけた。
    彼は静かに聞いてくれた。彼は何も言わなかった。

    彼は先にたって歩き始めた。
    その広い背中をわたしは少し後ろから付いて行った。
    まわりは真っ暗でアンドレの背中だけが目印になった。
    いつもはわたしが前を歩くのだが 暗闇を歩く時はアンドレが先に行く事が多かった。

    ふいにアンドレが立ち止った。止まれない事はなかったのだが 
    わたしはわざと止まれないふりをして 彼の背中にぶつかった。
    「ごめん オスカル 急に止まって」
    少し振り返ってアンドレが詫びた。わたしは答えず彼の背中にしがみ付いた。
    ほんの少し時が止まった気がした。

    「しゃがむぞ。」
    アンドレの声が離れろと言っている気がしたが 無視して彼の肩を掴んでわたしはしゃがみ込んだ。
    釣られる形で彼もよろめきながらしゃがんだ。
    彼の肩越しに覗くと カンテラを開けて彼は灯りを点けようとしていた。
    灯りはなかなか点かない。彼の温かい背中で幼い日の事を思い出した。

    「おーい オスカル 来てみろよ」
    アンドレがわたしを呼ぶ。
    「いいもの 見つけたぞ」
    「なに なに」
    わたしはアンドレの背中から彼の肩越しに見つけたものを覗きこむ。
    それはきれいな石だったり かわった花だったり 何に使うかわからない金属片だったりした。
    見つけたものを確かめてから わたしは彼の背中から出てそれを楽しんだ。
    何故こんな事をするのかというと アンドレが屋敷に来たばかりの頃 
    彼の見つける"いいもの"は 蛙だったり 蛇の抜け殻だったりしたこともあったからだ。
    初めは驚いてずいぶん怖い思いをした。
    だからわたしはまず彼の背中に隠れて それを確かめるようになった。
    しばらくするとアンドレはわたしの嫌がるものが分かってきて 怖い思いはしなくなったが。

    カンテラに灯がともった。肩越しにその灯を見つめた。
    その灯りに照らされた彼の顔はやっぱり泣いていた。
    「行くぞ」
    アンドレがわたしを振り返りながら 自然な動きで体を離して立ち上がった。
    それと同時に彼の大きな左手がわたしの手を握った。
    アンドレは右手に持ったカンテラの灯りで足元を照らしながら進む。
    わたしはまた幼い日を思い出していた。

    わたしとアンドレはよく夢中で遊んでいて遠くまで行ってしまう事があった。
    日が暮れてきて慌てて帰路についても 途中で真っ暗になってしまった。
    そんな時はいつもアンドレがわたしの手を引いて先に行く。
    それでもわたしは疲れてしまって歩けなくなってしまうこともあった。
    その時はアンドレがわたしを背負って歩いた。
    決してわたしを闇の中に一人置いて 大人を呼びには行かなかった。
    歯を食いしばってでも アンドレはわたしを連れて行ってくれた。
    子供の彼には大変だったろう。
    一緒に遊んでいて疲れているのは アンドレも一緒だったはずなのに。

    アンドレに手を引かれながら 大丈夫これでもう元通りだ。わたしはそう思った。

    翌日から夜のミーティングは再会された。話すことは沢山あった。
    衛兵隊初日は想像以上に手強かった。これからの方針や対策を二人で真剣に検討した。
    話が済むとアンドレはトレーを持ってドアのところで
    「おやすみ オスカル」
    と微笑んだ。
    「おやすみ アンドレ」
    とわたしも微笑み返した。
    おやすみのキスはなかった。いやなくて当たり前なのだ。今までがおかしかったのだ。
    いい年をして 恋人でも夫婦でもない二人が そんな事をしているほうが不自然だったのだ。
    そう考えても 何故だか寂しかった。
    スポンサーサイト
    sidetitle最新記事sidetitle
    sidetitleプロフィールsidetitle

    青林

    Author:青林
    ”ベルサイユのばら”の二次創作サイトを作っています。ぜひ遊びに来て下さいね。

    青林サイトへ

    ただいま、コメントへのお返事は基本的にはしておりませんが、頂いたコメントは大切に読ませていただいています。ありがとうございます。

    sidetitleカレンダーsidetitle
    05 | 2017/06 | 07
    - - - - 1 2 3
    4 5 6 7 8 9 10
    11 12 13 14 15 16 17
    18 19 20 21 22 23 24
    25 26 27 28 29 30 -
    sidetitleカテゴリsidetitle
    sidetitleリンクsidetitle
    sidetitle月別アーカイブsidetitle
    sidetitle検索フォームsidetitle
    sidetitleQRコードsidetitle
    QR