袖すり合うも多生の縁<3>

    アンドレは次の休日 友人を訪ねた。

    「ベルナール 元気だったか?」
    「もちろん 新聞記者は常に臨戦態勢だ。体長管理も仕事の内さ」
    ははは… 相変わらず真っ直ぐでエネルギッシュな奴だ。

    彼とは高校に入って知り合った。その頃から市民運動などに参加していて
    同じく高校で知り合ったアランと一緒に ずいぶんその活動に振り回されたものだった。
    おかげでオスカルのいない3年間退屈しないで済んだ。

    彼は高校卒業後 当然のように大学の社会学部に進学し 新聞記者になった。
    アンドレとアランは陸軍士官学校に進学し 軍人になったが 三人の友情は今も続いている。

    「ところで どうだった?アントワネット様の欧州歴訪は?
    何やら、面白いことがあったんだろ。」
    「さすがだな。どこで聞いた?あの件は極秘のはずだが」
    「おっと いくらおまえにでも 情報元はいえんよ。」
    「その口の堅さと 情報網を見込んで頼みがある。」
    ベルナールの口の端が ニヤリと上がる。

    アンドレはざっと事の成り行きを説明した。
    「その新聞記者について調べればいいんだな。」
    「そうだ。」
    「おれに頼むということは 表向きのプロフィールじゃ満足できないということだな」
    「表面的なことは軍の情報部でもすぐに調べられる。
    現にオスカルは帰国前から ジェローデル少佐に調査依頼をして すでに報告を受けている。
    これが写しだ。」
    手渡された資料をパラパラめくりながら ベルナールは感心したように言った。
    「さすがは情報部の若きホープ。短時間でよくここまで調べ上げたものだ。」
    ヒューと口笛をならす。

    「おれにはこれは完璧に見えるが おまえは何が引っかかっているんだ?」
    「わからない。自分でも。ただあの男を見た時 何か嫌な感じがしたんだ。
    それはおれの気のせいじゃないと思う。オスカルの様子もおかしかったし」
    アンドレは アントワネット様の手をフェルゼンが握ったくらいで 
    いつも冷静なオスカルが 異常なほど取り乱したことを思い起こしていた。

    「軍人のカンってやつか。」
    「まっそんなところだ」
    「わかった 厄介な仕事になりそうだから 時間をくれ」
    「いいとも よろしく頼む」

    その時 ドアの外を やや駆け足ぎみの 軽やかな足音が聞こえてきた。
    「ベルナール いる?」
    ドアがノックも無しに開いて ひょこっと大きな瞳が印象的な 
    愛らしい顔がドアの隙間から覗いた。
    「あら アンドレきてたの」
    ロザリーは満面の笑みを浮かべ 急ぎ足でアンドレに近づき 彼の手を取った。
    「ねぇ オスカルさまはお元気?」
    「ああ」
    「もう 心配してたのよ 一ヶ月もの欧州歴訪の護衛 お疲れじゃないかしらと」
    「大丈夫 元気だよ」
    アンドレはほんの少し嘘をついた。
    実はアントワネット様だけでなく オスカルも帰国後少し 様子が変わったのだが 
    それをロザリーに言えば どうなるか目に見えている。

    ロザリーは矢継ぎ早にオスカルのことを アンドレに尋ねた。
    ベルナールを尋ねてきたはずなのに 彼などいないかのように夢中で話していた。
    アントワネット様の護衛はアンドレも同行していると知っているはずなのに 
    彼に対する労いの言葉はついに一度も発せられることはなかった。

    ようやく 機関銃のようなお喋りが落ちついてきて ロザリーがキッチンに消えたので 
    やっとアンドレは帰りの挨拶をすることができた。

    「駅まで 送るよ」
    ベルナールが上着を手に取ると アンドレはそれを制した。
    「いいよ それより 彼女をほっといてはまずいだろ」
    ちらりとキッチンを見る。
    「いいんだ どうせ 大した用じゃないんだよ」
    ベルナールも同じ方をそっと見た。ロザリーは勝手知ったる我が家とでもいうように 
    キッチンの方で 何かゴソゴソ作業をしている。

    「ロザリー アンドレを送ってくるよ」
    ベルナールがそう声をかけると ロザリーが不服そうな声を出した。
    「まぁ もう帰っちゃうの せっかくお茶を入れる準備をしていたのに」
    「ごめん ロザリー もう時間が無いんだ。
    君の最高に美味しいお茶が飲めないのは本当に残念だ。
    今度オスカルと一緒に ゆっくりいただくよ。」
    その言葉にロザリーはキッチンから飛び出て来た。
    「本当 アンドレ 約束よ 必ずオスカルさまをお連れしてね」
    強引に指切りをさせられた。

    自分の指に絡む 白くて華奢な指 ふわりと漂う甘い花の香。

    そう言えば マザーグースに女の子はお砂糖で出来てるって歌詞があったな。
    アンドレはふと そんなことを考えた。
    ロザリーは本当に砂糖菓子のような 女の子だ。

    (つづく)
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