袖すり合うも多生の縁<10>

    外ではオスカルがコートを羽織ってもう数十メートル先を歩いていた。
    アンドレが追いついて横に並ぶと イライラしたオスカルの顔が見えた。
    「アフタヌーンティーの時間だ お茶していかないか」
    「そんな気にはなれない。」
    「さっきのダージリン 極上ものだったのに 一口も飲まなかっただろ」
    イライラしているオスカルとは反対に 何故かアンドレはすっきりしている。
    「甘いもの好きだろ。今の季節ならおまえの好きなマロン菓子が並んでいるぞ」
    目に付いたしゃれたカフェにアンドレはオスカルの手を引いて入った。

    「イライラの原因は何だい?」
    アンドレがスコーンにたっぷりクリームを乗せてオスカルに手渡した。
    「わからん。彼に会えば何か分かるかと思ったが 余計混乱してしまった。」
    「そうか おれはすっきりしたがな」

    オスカルがじっと睨むように アンドレを見る。
    アンドレは自分のスコーンに杏ジャムを乗せながら 澄まして続けた。
    「彼を見て気づいたんだ。簡単な話じゃないか。愛し合う男女がいて ふたりとも独身だ。
    結ばれて何の不都合もあるまい」
    「フンッ なにを寝ぼけたことを」
    「おれは ちゃんと起きてるぞ。おまえこそ何が問題だと言うんだ?」
    「身分が違うだろ。
    確かにフェルゼンはイギリス貴族の血とスウェーデン貴族の血を引いていると
    報告書にあったが それでも王族と釣り合う程とは思えん」
    「そこさ オスカル おれ達は身分に囚われ過ぎていたんだ。」
    「どういうことだ?」
    「おれは 前から思っていたんだよね。王女様だから 自由が無いなんておかしいなと。
    このイギリスでは 王族も普通に自分で買い物するっていうじゃないか。
    おまえは過保護過ぎるんだよ。」
    「そうは言ってもだな」
    オスカルは眉を吊り上げた。
    「この国と我が国では事情が違う。海を持たない我が国では全ての国境を他国と接している。
    その地理的環境と小国である哀しさから 歴史上何度も侵略され 
    時には言葉や国名までもが奪われたこともある。おまえも知っているはずだろ。
    我がジャルジェ家はそんな中 現王室を何百年に渡りお守りしてきたのだ。」
    「もちろん、知っている」
    アンドレは 三段重ねのアフタヌーンティースタンドの上段から 
    モンブランを下してオスカルに勧めた。
    オスカルはまだムッとしながら 乱暴に手でその小ぶりな菓子に齧りついた。
    秋の味覚が口の中に広がり 心ならずも頬が緩んでしまう。

    そんな様子にアンドレはクスッと小さく笑って 話を続けた。
    「そう 今までは苦難の歴史が続いた。
    だが 人類は進歩するんだ。
    いがみ合っていたヨーロッパは今は一つになろうとしている。
    そして各国の王宮は民間からの婚礼を受け入れ始めている。
    フェルゼンのルーツであるスウェーデンなども 
    王位継承者は女性でその夫はもと平民だ。」

    アンドレはオスカルの瞳に視線を合わせ 強い口調でこう言った。
    「なぜ 我が国の王女だけが 自由を許されない?」
    「だから おまえは王女に同情して あの時アントワネット様をあの男と行かせたのか」
    「うん。結婚すればますます自由がなくなると思ったから。」
    「おまえの言いたいことは分かった。
    だが 王女はいわば公人だ。我々がどうこうできはしないのだぞ」
    「おれは 彼なら出来る気がするんだ。
    だからさっきな 来週の建国記念日に宮殿を解放すると教えてやった」
    「なんだと!どうなっても知らないぞ」
    「べつに いいさ おれは公式に発表されている 
    我が国の年中行事を教えただけさ。どうするかは彼次第だ」

    そういうと アンドレは紅茶をすすりこんで 満面の笑みを浮かべて言った。
    「美味いなこれ 茶葉を買って帰ろうか。」

    (つづく)
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