約束していた言葉 <15>

    事態がここまで切迫する前に ルイはこの財政難を利用して 
    現在フランスが抱え込んでいる"君主制"の問題を改革するつもりであった。
    かつて財務総監であったカロンヌ氏とともに。

    カロンヌ氏は才気に溢れていた。
    そして情熱を持ってルイとルイのフランスを救おうと昼夜を問わず職務に励んでくれたのだ。
    ただ、彼は陽気で楽天家で有り過ぎた。そしてルイもまた未熟であった。
    ルイは苦い思いで当時を振り返る。彼の改革の方向性は決して間違っていなかったのだが…。

    彼はルイにこう言った。
    「ご心配なさいますな。フランスにはまだまだ未知の富が沢山ございます。」
    そして、快活に笑い ルイに未来のフランスを語ってくれたのだ。
    「フランスはイギリスに比べ工業化が遅れております。
    別な言い方をすればまだまだ発展する余地が大いにあるということ。
    これを取り戻せば王国は発展し新たな財源が生まれます。
    要するに税金を搾り取るのではなく活性化を図ることが大切なのです。
    そして生まれた富を流通させることも肝要です。
    そのためには税金の平等な負担にも着手しなければなりませんが。」
    カロンヌ氏はルイを見つめ言ったのだ。

    「偉大なる陛下になら それがお出来になります。」
    けれど 当時はまだ 貴族たちは自分達の置かれている状況に気づいていなかった。
    そしてルイはそうした大貴族たちの攻撃から彼を守ってやる事ができなかった。

    カロンヌ氏はその言葉通り 王立の工場を設立し 外国の技術を積極的に取り入れつつ、
    もともとフランスの主力たる農業にも力をいれ 
    道や運河を整備し フランス経済を活性化した。

    しかしながら、もう一方の課題 税金の平等な負担は遅々として進まないどころか、
    やろうとすればするほど ルイもカロンヌ氏も追い詰められてしまった。
    自分を引き立ててくれたポリニャック夫人にカロンヌ氏は頭が上がらなかったし 
    ルイもアントワネットの頼みを断れなかった。
    その結果、ポリニャック家には不当な年金が支給されることになった。
    また、ルイの二人の弟たちはそれぞれ巨額の借金を抱えており、
    ルイは彼らを破産から助けてやるために2700万リーブルものお金を
    工面してやらなければならなかった。

    これでは他の貴族たちになかなか示しがつくわけがない。
    それでも改革を推し進めようとして
    カロンヌ氏はその身に多くの貴族の恨みをかうことになってしまったのだ。
    とりわけ、マリー・アントワネットとは険悪の中になっていった。

    それでも彼は努力を続けたが やはり一番の経済的弊害である「税制の改革」なくして
    フランスを救うことはできない。ついにカロンヌ氏は貴族達との全面対決も辞さない覚悟で
    ルイに「財政改善計画概要」を提出した。
    これは3年間彼がフランスの実情を調査し練り上げた合理的なプランであった。

    もちろん貴族並びに聖職者には不利な内容である。だが国家はすでに崖っぷちに立っており、
    もういつ破たんしてもおかしくない状況であったのだ。

    仮に特権階級の人々がもう少し賢くあったならば この案を渋々でも受け入れ、
    彼らは国を追われることもなく、その名誉を保つことが出来たはずであった。
    そして、フランスは瞬く間に国力を回復したに違いない。

    けれど 彼らはカロンヌ氏を無能呼ばわりし 
    いつわりをでっちあげてまで追い出しにかけたのだ。
    こうなることはカロンヌ氏も予測していたことだ。彼の計算は別のところで狂ったのだ。
    「既得権を持っている者に、それを手放せと言っても無駄なことでありましょう。
    ですから、このプランで暮らしが良くなる者 
    すなわち陛下の民にこそ訴えかけようではありませんか。」
    この時、カロンヌ氏はルイが国民に人気があること、
    自分のプランが必ず民衆に歓迎されるだろうと確信していた。
    けれど民衆は彼が思う程賢くはなかったのである。

    こんな税の仕組みをいったいどれほどの国民が理解できるというのだろうか?
    明日のパンにすら事欠く彼らに 国家予算についてどう考えろと言うのだろう?

    ルイとカロンヌ氏の思いを託した文書『14の意見書』は
    密かに4万部も刷られパリの街に配られた。
    文字の読めない者達には司祭が読んで聞かせた。
    そして、それは地方の小さな町までも配布されたのだ。

    これで人々は反対派が流したデマに気づき、改革の真意を知ってくれるだろう。
    そして、こぞって王のもとにはせ参じ声を上げてくれるに違いない。
    そうルイもカロンヌ氏も期待していた。

    結果は真逆であった。世論はルイとカロンヌ氏を助けるどころか、
    激しく攻撃してきたのである。
    ジャーナリストはこぞって中傷文を書き、
    政策とは関係の無いカロンヌ氏の人間性を問題視し、過大に悪く書き立てたのだ。
    そのうえ、『14の意見書』はカロンヌ氏が追い詰められた腹いせに 
    国家の赤字を暴露したものであるとまで書かれたのである。

    もはや ルイとカロンヌ氏は孤立してしまった。
    ルイはカロンヌ氏を庇ったが庇えば庇う程事態は悪化したのである。

    ついに混乱を収めるため ルイはカロンヌ氏を解任した。
    この頃からルイは失意と孤独に落ちてしまった。

    自分は王でありながら この国の王でありながら

    この国の現状を理解していながら

    民を愛していながら 
    そして、自分を責めたてる特権階級の者達をも我が民と感じていながら

    自分を責める妻を心から愛しく思いながら

    その彼らや国を救う方法があるのを知りながら

    それを行うことが出来ず 
    身命を賭して忠誠を誓ってくれた友を

    追い出してしまったのだ…

    ルイは心を閉ざしてしまった。
    積極的に国政にかかわると言うより
    周りに流されるようになってしまったのだ。

    (つづく)
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