約束していた言葉 <22>

    パリへ向かうルイの護衛は近衛隊ではなく 
    ボーヴォー元師、ヴィルロワ公爵、ヴィルキエ公爵、ネール侯爵 
    そしてベルサイユ国民軍司令官デスタン少将と彼の率いるベルサイユの市民軍である。

    途中市民軍はパリの市民軍と交代し、バイイも一行に加わった。
    だがこの時のバイイの態度が以前といささか違っていた。
    ルイを案じてくれた前回と違い、よそよそしく敵意が含まれていた。

    "パリの情勢はかなり悪いらしい"

    ルイには彼の行動が理解できた。彼個人がルイに好感を持ってくれていても、
    そのことを今やパリ市長となる立場では示すことができないのだ。
    そんなことをすれば 革命の敵とみなされ彼自身の身が危なくなるということなのだろう。

    40人の代議員に先導された王の後ろに、100人の代議員が続く行列は
    パリの街をゆっくりみせしめるように行進していく。それを一万を超える民衆が迎えた。
    けれどその手には王に捧げる花の代わりに銃やサーベルなどが握られ
    「国王万歳!」の声はほとんど聞かれる事無く 
    代わりに「国民万歳!バイイ氏万歳!ラ・ファイエット将軍万歳!
    国民議会万歳!祖国万歳!」などの言葉が叫ばれていた。

    その中でもルイは怯えることなく むしろ微かな微笑みさえ浮かべていた。

    パリの市庁舎に到着すると バイイはルイに三色の帽章を差し出した。
    それはパリ市の色である赤と青、そして王家の白を組み合わせたものである。
    ルイは甘んじてそれを受け帽子につけ サーベルの白刃のアーチをくぐった。

    "なんと姑息な…"

    ルイはあまりの低俗なやり口に屈辱を感じるよりも 苦笑が込み上げてしまった。
    三色の帽章は和解と見せかけて 市民の間に王家を捉えたと表現したいのだろう。
    さらにこの両側に兵士が並び サーベルを掲げて交差させアーチをつくり 
    その下をくぐるというのは フリーメーソンメンバーであるルイには
    侮辱と非難することはできない。

    けれど見ている者の中にこれがフリーメーソン式歓待であると知っている者がいるだろうか。
    多くの者の目には民衆の刃の下に組み敷かれた王と映るのではないだろうか。
    多少知識のあるものならさらにこれは槍門。
    かつてサマニウム軍に負けたローマ軍兵士がサマニウム兵士の交差させた槍の下を
    敗者として歩かされた故事の方を思い出すに違いない。

    それでもルイは悠然とその白刃の下を進んだ。
    その姿は見る者の胸に畏敬の念を抱かせた。
    彼に対する嫌がらせは彼を卑しめるどころか 彼の偉大さを強調してしまったのだ。
    周りが暗くなればなるほど 光がより眩しく感じられるようなもの。
    彼の敵が汚いやり方をすればするほど 
    ルイの寛大さ 気高さ ゆるぎない意志をより際立たせるのだ。

    この後、ルイはバイイをパリ市長に、ラ・ファイエット候を国民軍司令官に
    それぞれ就任することに同意した。この時もルイは屈辱的な扱いを受けたが彼は動じなかった。

    業を煮やした バイイは窓からルイに帽章が見えるようにして 
    民衆に手を振ってほしいと恭しく頼んだ。
    バイイとしては今回のパリ訪問で王家に対して民衆の完全勝利を演出する義務があったのだ。
    それが彼の立場なのだ。

    ルイは抵抗することなく 堂々と窓辺に立った。
    ここで 王は民衆からヤジられることだろう。
    少なくとも、屈辱的な姿を示せるだろうと考えたのだが、結果は逆であった。

    グレーヴ広場を埋め尽くした民衆からは
    「国王万歳!王は第三身分の味方だ!」
    の声が惜しげもなく上がったのである。
    その光景に 今まで王に好意を示すことを我慢していた、
    室内に居合わせたサン・メリーはついにこう言わずにはいられなかった。
    「陛下 あなたは王になる星のもとにお生まれになり王となられました。
    けれど今日、陛下はあなたの美徳ゆえに民衆の愛と忠誠を受けられ我らの王となられました。」
    ルイはそれに静かに答えた。
    「わたしはわたしの国民を常に愛している。」

    その会話が口火となり 人々は口々に王を賞賛し、
    ついにはバスティーユを取り壊した後地を広場にして 
    そこにルイ16世の像を建てることになったのだ。

    ベルサイユへの帰還は行きとは違い沿道に並ぶ市民からは「国王万歳!」の歓声が上がり、
    ラ・ファイエット候は嬉々としてルイの護衛を務めたのだ。

    だが、この歓声の中でもルイの心は少しも和みはしなかった。
    むしろ行く前より沈んでいたと言っていいだろう。
    行く前は興奮した市民に虐殺される覚悟であった。
    けれど 今回そのようなことはなかった代わりに もっと執念深い恐怖を感じたのだ。
    いや、うすうす気づいてはいたが はっきりしたというべきか。

    今回、ルイに対して行われた数々の嫌がらせは 
    とても市民たちが思いつくようなものではない。
    いや、市民が本気で自分を亡き者にしたいのなら、
    ド・ローネ公にしたように自分を襲い殺すことが出来たはずだ。
    ルイは自分に忠誠を誓う軍隊を連れてはこなかったのだから。
    市民軍はその名の通り市民である。
    いざとなれば職務を放棄、あるいは自分達もルイ殺害に加わっても おかしくはないのだ。
    そもそもルイを守るというより 監視に近い存在であった。

    では、こんな回りくどいやり方を誰が何故したのか。
    今回だけではない。
    ベルサイユに一夜にしてあれほど大量の「改革のために 
    打ち落とさなければならない 286人の首」のビラが配られた。
    この286人の名前、その選定だけでも時間がかかりそうなものなのに…

    カロンヌ氏の時もそうだ。
    あっという間に悪意のこもったビラやパンフレットが大量に出回り 
    改革は断念せざるをえなくなり カロンヌ氏はイギリスに亡命同然で退いたのだ。

    敵は民衆ではない。宮中にこそいるのだ。

    この騒ぎで 小悪党は逃げ出した。
    だが、もっとも厄介な巨大な魔物がまだ宮殿には巣くっているのだ。
    ルイが真実戦うべき敵は彼らなのだ。民衆ではない。

    (つづく)

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