約束していた言葉 <38>

    ジェローデル達がイギリスに発った後、オスカルとロベスピエール ベルナール
    そして、サン・ジュストはスタール夫人を訪ねていた。

    「ぼくは以前彼女のサロンに招かれ ネッケル氏に紹介してもらったことがあるんだ。
    正直ネッケル氏には失望させられたのだが 
    スタール夫人のもてなしの温かさには感動したよ。」
    ロベスピエールが言うと ベルナールもサン・ジュストも頷いた。
    「そうか、わたし以外は皆 サロンに行ったことがあるのだな。
    彼女のサロンはなかなか開明的だと聞いている。
    わたしは彼女を何度か見かけたことはあるのだが、話したことはない。」
    「彼女は文学者でもあって『ルソーの性格および著作についての手紙』などの著作がある。
    男にもてるというタイプではないが なかなかの女性だよ。」

    スタール夫人に会ってみると なるほど 美人ではないが 明るく闊達な女性であった。
    熱心に 政治について語り 自分の父親がいかに 
    フランス人民に愛される英雄であるかを熱弁した。

    「あら、いけませんわ。ついわたくしばかり 話し過ぎてしまって。」
    「いいえ、興味深いお話ばかりでしたよ。」
    「オスカルさまは本当に聞き上手でいらっしゃるから 
    わたくし夢中になってしまいましたわ。」
    「あなたのような女性の話ならば 何時間でも退屈はしないでしょう。
    実に鋭い観察力と得たものを熟慮される深い知性をお持ちだ。」
    「まぁ…」
    スタール夫人は頬を染めて喜んだ。
    人は自分が優れていると自負しているところを褒められると嬉しいものだ。
    ましてや 今、一番話題のオスカル・フランソワにである。
    輝かしくバスティーユで活躍した後 忽然と姿を消してしまった美貌の英雄。
    スタール夫人にとってこれほど魅力的な人物はいないだろう。

    「これまでのお話で あなたなら 理解していただけると確信できました。」
    夫人が満足した頃を見計らって オスカルは切り出した。
    「実は お父上のネッケル氏にお願いしたいことがあるのです。」
    「父にですか?」
    「あなたも先ほど この国の経済は危機的であるとお話下さったではありませんか。
    実はそれを救う妙案があるのです。」
    「それはいったい?」
    「カロンヌ氏です。」
    「カロンヌ氏ですって?! あの大嘘つきですか!」
    「そうです。」
    「何をおっしゃるのです。あの男がなんだというのです。
    彼は父の功績を捻じ曲げ せっかく築いたものをぶち壊した人物ですのよ。」

    "やれやれ、彼女は父親を盲目的に崇拝していると聞いていたが 本当のようだ。
    真実を語っても信じることはあるまい。"

    「ええ ですが 彼はフランス王ルイ16世陛下に信頼されていました。
    その時彼は何かを知りえたようなのです。内容は定かではありませんが、
    財務を預かる者なら 必ずその価値が分かるだろうということのようです。
    この情報を提供する代わりに 陛下へのお取りなしと
    フランスでの暮らしを約束していただきたいというのが条件です。

    もっともお父上であれば このような情報など必要ないのかもしれませんが、
    彼ほどの人物がこれほど苦戦しているというのであれば 何かあるのかもしれません。
    それがカロンヌ氏のいう情報だとすれば それを得ることで早く
    フランスを危機から救うことができるかもしれません。」
    「むろん 父は何かあるとしても自力で見つけ出し 対処なさるでしょう。
    カロンヌ氏の汚いやり口に耳を傾ける必要などありませんわ。」
    「だから あなたにお願いするのですよ。マダム」
    オスカルはスタール夫人の手を取り その瞳を見つめる。

    冬のオリオンを浮かべたがごとく輝く青の瞳に見据えられ
    抗える人間がどれだけいるだろうか?

    「きっと お父上は納得なさらない。
    ですがあなたなら その優しいお心で早く苦しむ人々を助けたいと思うはずだ。
    そして その寛大なお心で カロンヌ氏を受け入れて下さると考えたのです。
    どうかお父上にお取りなしくださいませんか?」
    「…」
    「お願いです。マダム」
    「分かりました。父に話してみましょう。」
    「ありがとうございます。出来る限り早い方が良いのですが。」
    「では 明日にでも父を訪ねましょう。」
    「さすがですね。行動力がおありだ。」
    スタール夫人は嬉しそうに微笑んだ。

    「オスカルさま サロンにいらっしゃいませんか?
    あなたならどなたとでもきっと話が弾むと思いますわ。
    いいえ、むしろあなたこそが サロンの中心におなりでしてよ。」
    「ありがとうございます。けれど わたくしの事は
    今しばらく 秘密にしていただきたいのです。
    命を狙う者も少なくはないのに まだバスティーユで受けた傷が癒えてはいないのです。」
    「まぁ なんてことでしょう。でしたら我が家にいらして。 
    十分な医療と安全な部屋と護衛を用意しますわ。」
    「ありがたいお申し出ではありますが こちらは人の出入りが多すぎます。」
    オスカルは寂しげに微笑んだ。
    「本当にお優しい方だ。わたしの為にもどうか 今しばらくはこの事は秘密に。」
    「わかりました。ああでも わたくしに出来ることは
    なんでもおっしゃって下さいね。オスカルさま」

    スタール夫人の手にくちづけをして オスカルは屋敷を後にした。

    (つづく)

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