約束していた言葉 <52>

    プロバンス伯はまず アルトワ伯に連絡を取り 国王ルイの現状を歪曲して伝えた。
    王がもはや法的な決定権を有していないこと、テュイルリー宮に軟禁状態であることなどを 
    言葉巧みに同情を引くように話したのである。
    単純で気のいいアルトワ伯はすぐに フランスへの軍事介入をするよう各方面に働きかけた。
    革命をつぶし兄王を助けようと躍起になったのだ。

    すっかりアルトワ伯を取り込めたとみるや 
    今度は皇帝ヨーゼフ2世に働きかけるべく オーストリアに向かった。
    実はルイ16世とヨーゼフ2世は外交問題をめぐって険悪な仲だったのである。
    女帝マリア・テレジアの死後、野望をあらわにし始めたヨーゼフ2世は
    積極的に支配勢力拡大に乗り出した。

    彼だけではない当時ヨーロッパではプロイセンやロシア などが 
    かってにヨーロッパ中をとりあっていたのである。
    その戦いを有利に進めるため ヨーゼフ2世自ら、協力をもとめベルサイユに出向いた。
    けれどルイは協力を拒んだ。
    ルイはこうした列強の身勝手な武力による
    いわば略奪行為を受け入れることができなかったのである。

    この野心家の皇帝にプロバンス伯は物わかりの良い振りをして近づいた。
    自分は兄のような堅物ではない、強いものが領土を獲得するのは当然ではないかと。
    ルイに一泡吹かせ、あわよくば領土を獲得できるかもしれないと感じたヨーゼフ2世は 
    プロバンス伯に協力を約束した。

    オーストリアに遅れまいとプロイセンのヴィルヘルム2世が参戦。
    さらに啓蒙思想の広がりに危機感を感じた。ロシアのエカテリーナ2世も加わった。
    イギリスもまたアメリカ独立戦争で疲弊はしていたものの、
    アルトワ伯の必死の訴えとヨーロッパ各国の動きに軍をフランスに送り込む算段を固めていた。

    この事態に 国民議会も宮廷も浮足立った。
    バスティーユ以来 軍の統率は乱れ 士官が相次いで亡命していたのである。
    国民衛兵隊は徐々に組織されつつはあったが 
    そのほとんどが軍隊経験のない未熟な兵士である。

    ラ・ファイエット候はすぐに全国の国民衛兵隊に指令を出し 
    武装を呼びかけ 檄文を飛ばした。

    『今こそ 我らが 祖国と革命を守る時だ!』

    最初の衝突はベルギー国境付近でオーストリア軍との間で起きた。
    この戦闘に弱腰になったフランス軍の司令官はすぐに退却を命じた。
    この命令を不服に思った兵士たちはなんとこの司令官を私刑にかけ 虐殺してしまった。
    指揮官を欠いたフランス軍はあっけなく敗退した。
    次にプロイセン軍も国境を超えロンウィの砦を陥落させた。
    これにイギリスの海からの攻撃が加わり フランスはまさに危機的状況であった。

    各地から送られる報はどれも敗戦を伝えるものばかりである。
    始め愛国心に燃えていたフランス軍も次第に士気を落としていった。

    「アンドレ、わたしはもう一度 軍服を着ようと思う。」
    この突然のオスカルの言葉にアンドレは驚かなかった。
    「うん。おれはどこへでも付いて行くよ。」
    力強く頷いた。祖国の危機にオスカルもアンドレも覚悟を決めていたのだ。

    オスカルの怪我は完全には治っていない。胸の病もある。
    理由はどうあれ アントワネットを裏切ったことに 多少負い目を感じていたこともあり 
    オスカルはもう表舞台に立つことなく、
    裏からフランスと王室の為に尽力するつもりであった。

    だが、今祖国は軍人を欲している。
    指揮が取れる将校がどうしても必要なのだ。

    オスカルの存在は 特にフランス軍の士気を高めるのに役立つだろう。
    それを最大限利用するために ベルナールたちは宣伝計画を立てた。

    「おい、おまえも行けよ。」
    ベルナールはアランの肩を叩いた。
    「行きたいんだろ。軍に戻れ。おまえは士官の勉強を修めているのだから。」
    「しかし…」
    「ここの守りなら心配はいらない。おれはもと黒い騎士なんだぞ。」
    「わたしもこう見えて 剣も銃も扱えるのよ。」
    ロザリーも言い添える。

    アランは目を輝かせた。
    「ありがとう ベルナール、ロザリー」
    彼はその日のうちに 国民衛兵隊に入隊した。

    涼やかなその日、オスカルは青い国民衛兵隊の軍装で 三色の帽章を着け 
    剣を帯びて テュイルリー宮に堂々と正面から伺候した。

    誰もが この流れるような金髪の麗人を忘れてはいなかった。
    彼女の姿を認めた人々は駆け出し

    「バスティーユの英雄が生きていた!」

    そう触れ回った。その中にはもちろんベルナールの手の者が多数交じっている。

    オスカルはまず ルイ16世に正式に謁見し 並み居る宮廷人の前で 王に口上を述べた。
    「陛下 お許しいただけますならば 再び この身をフランスの為に捧げとうございます。」
    「オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ伯爵。
    あなたにはすでに将軍の地位を与えています。存分に戦われよ。」
    「はっ!」

    オスカルは王に敬意を表し その足で 軍総司令官ラ・ファイエット候のもとに向かった。
    候はすぐに フランス東部の国民衛兵軍の指揮権をオスカルに与えた。
    これらの事はすでに打ち合わせ済みなのだ。

    オスカルはすぐに出陣の準備を開始する。
    翌早朝、朝日の中 煌めく金髪を靡かせながら オスカルはパリの市街を行進する。
    三色の大旗を従え 幾多の兵士達の先頭に立つ。

    その傍らに アンドレとアランがいた。
    そしてその後ろには あの日オスカルと共に戦った
    かつてのフランス衛兵隊のメンバーがジャンとフランソワを除き勢ぞろいしていた。
    ラ・ファイエット候からの贈り物である。
    各地に散っていたメンバーをみな呼び戻したのだ。
    これによりオスカル軍は
    はじめから中核が整い、士気の高い状態でスタート出来た。

    「久しぶり 元気だったか?」
    「また 隊長と戦えるのか…うっうっ…」
    「泣くなよ。ばか!」
    皆久しぶりの再会に 抱き合い無事を喜んだ。

    「諸君!」
    オスカルの声にざわついていた兵士が皆私語を止め オスカルに注目する。

    「さぁ 再び祖国の為に 戦おう!
    あの日勝ち取った三色旗のもと、革命を守る自由な戦士として!」

    「おー!!!」
    鬨の声が上がり進撃が開始される。

    緊張にオスカルの体が震える。けれど それを隠しグッと胸を張る。
    自分の姿が フランスに勇気を与えるのだ。強気を張らなければいけない。
    パリを抜けるまでオスカルは馬上毅然とした態度を崩しはしなかった。

    (つづく)

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