約束していた言葉 <55>

    オスカルは雪の降るフランス東部で 34歳の誕生日をむかえようとしていた。
    教会では今年もいつも通りミサが行われていた。
    ローマ教皇と革命との間で フランスの教会は揺れていたが、
    この教会では神の救いを求める人々の為に
    例年と少しも変わらない形でノエルをむかえることにした。
    今年は駐屯している多くの国民衛兵隊員達も 快く受け入れたため 
    教会の外にまで人が溢れてしまった。
    この教会に所属する人々を優先的に中に入れ、
    隊員達は雪の上に跪き 神父の祈りに耳を傾けた。

    ミサの合唱は村中に響き渡った。パンと葡萄酒を授ける列は長く続いたが 
    神父は最後のオスカルとアンドレの番まで笑顔を絶やすことはなかった。

    「この美しい村が戦場にならなくて 本当に良かった。」
    帰り際 神父がそう言って祭壇に跪くのを見た。

    「隊長!これから 村長がみんなで飲みましょうって!」
    ピエールがオスカルを呼びに来た。
    村人は大抵 家族でノエルを過ごすのだが 
    村長と村の有志が遠く故郷を離れ 
    祖国と革命の為に働く隊員の為に労いの宴席を設けてくれたのだ。
    この好意をオスカルはありがたく受け この夜は大いににぎわった。

    「よっと!」
    慣れた感じでアンドレは酔いつぶれたオスカルをべッドに運んで靴を脱がせた。
    軍服も脱がせ クラバットを外した。

    掛布を掛けてやり そっと頬にくちづけすると
    「お誕生日 おめでとう オスカル。」
    そう小声で囁いた。
    「ありがとう アンドレ。」
    寝ているはずのオスカルは 目を開けてアンドレを見つめた。
    「やっぱり 起きていたのか。ならちゃんと着替えろよ。」
    「おまえが着替えさせてくれ。」
    「ばか言うな。じゃあな。」

    あっさり出て行ってしまう夫を オスカルは少し恨めしく思った。
    しかたがない事ではあるのだが。やはり少し寂しい。
    さっき教会で いっそ式を挙げて皆に夫婦であることを宣言したい衝動に駆られたが、
    後ろに並ぶアンドレはそんなそぶりを少しも見せてはくれない。

    分かってはいる。皆、家族や恋人と離れて戦地に来ているのだ。
    それを思えば アンドレとのことを 公にするのは憚られる。

    また、今この隊には 志願してきている女性が少なからずいる。
    隊長である自分が 色恋の素振りを見せれば 間違いが起きないとも限らない。

    「けれど… 寒い アンドレ…」
    彼に抱かれたのはあの夜ただ一度きり。
    なのに、体はそれを求めて 甘く疼く。

    おまえは平気なのか。
    おまえは忘れられるのか。
    あの 甘美な喜びを…

    分かっていても 堪えるのはやはり 辛い。

    年が明けて やがて 雪解けを向かえたが 
    各国は攻めてくる気配が全くなかった。

    要因はいくつかある。
    もっとも大きなものは 革命包囲網の中心であったヨーゼフ2世の死である。
    この思いがけない死は各国の結束を一気に崩した。
    もともと信頼などで結びついていたわけではない国々は 
    野心の薄いレオポルド2世が後継となったと知るや フランスから手を引く決断をしたのだ。
    オーストリア軍を全面に押し出し、その陰でうま味を吸おうという計画が崩れたばかりか、
    簡単に落とせると高をくくっていたフランスが
    意外にも強敵で厄介だったため 落とすには相応の覚悟がいると判断したのだ。

    また、近年の強引な勢力拡大のやり方に 多くの民衆が不満を持っていることも理由のひとつだ。
    下手に革命をつぶしにかければ 自国内で反乱分子を立ち上がらせる結果になりかねない。

    それよりも 発展しつつあるフランスと外交をする方が国益に叶っていた。
    港湾を整備し自由港を増やしたフランスは多くの人口を抱える魅力的な市場になりつつあった。

    ルイはこれらの事を 分析して 臨戦態勢から 国防へと軍の体制を切り替えることにした。

    その調整の為に ラ・ファイエット候とオスカルに パリへの帰還を命じた。

    オスカルはすでに王より内々に事の次第を指示されていたので 
    国境警備と治安維持に重点を置いた配置に切り替え、そのための訓練も十分すませていた。

    (つづく)

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