おれの気持ちー5-

    オスカルの結婚話は順調に進みそうだった。なにせだんなさまが乗り気なのだ。
    条件は申し分ない。ただオスカルが抗議していた。それでも貴族の結婚は当主の意向で決まる。
    当人の意思は認められない。時間の問題だ。おれは荒れていた。
    オスカルはもうすぐ他の男のものになるのだ。おれのオスカルが。

    オスカルが望んで幸せになれるのなら良い。でもそうではないのなら。
    おれがオスカルの全てを奪おうとした時の事を思い出していた。
    嫌がっていたのにおれはこともあろうに オスカルのそんな姿に欲情したのだ。
    男というのはどこまで残酷なのか。涙して大人しくなったオスカルを見てさすがに目が覚めたが 
    もしこれが正当な関係だったら。仮に初夜ならジェローデルはオスカルをそのまま抱くのだろう。
    彼にはその権利があり 理由がある。跡継ぎをつくるという理由が。

    さすがにおれの時にみたいに 突然というわけではないので 
    オスカルも覚悟はしてのぞむのだろうから はじめから暴れたりもしないのだろうが。
    意に沿わぬ男の腕の中で 涙をこらえて耐えるあいつを思うとおれは。 おれは。 

    "貴族の身分があれば"

    誰にも渡したりしない。おれを愛してくれなくてもいい。
    子供をつくる道具みたいに扱ったりしない。
    いつまでも いつまでも おまえを守りたい。
    愛している おまえを苦しめる 全てのものから おまえを守りたい。

    おれは無力だった。なにひとつ オスカルの力にはなれない。
    しょせんただの従僕にすぎない。

    どうにもならないのか。どれほど愛していても
    おれは無力なのか。 この命とひきかえにしてもだめなのか。

    悶々とした日々が過ぎていく。毎日のようにジェローデルは屋敷へ来る。
    式の日取りは決まらなかった。
    なんとしてもオスカルの合意を得てから結婚したいようだ。むりやりというわけでもないのだな。
    今まで 求婚しなかったのもそのためか。 愛し愛されて結婚したいというわけだ。
    おれなんかよりずっと人間ができている。
    だんなさまも何も言わず ジェローデルの意思を尊重されている。

    けれどオスカルは "ウィ" とは言わなかった。

    世の中は混沌としていた。今にも何かが爆発しそうだった。
    おれにも時代が大きく変わる予感が感じられた。
    衛兵隊の連中やベルナール達と話していてもそれは分かった。

    そんな巨大な力の前におれは無力だった。でもジェローデルは違う。
    軍に確固たる地位があり 財産も持っている。武力も教養もある。
    いざとなればオスカルを連れて外国へ行く事もできるだろう。
    そしてなによりオスカルを本気で愛している。
    嫌がるオスカルに乱暴しようとしたおれとは違う。

    もう終わりなのかもしれない。おれの役目は終わったのだ。おれではオスカルを守りきれない。

    けれどオスカルの抵抗は激しかった。こんなに嫌がるなんてよほど ジェローデルが嫌いなのか。
    そうは見えないが。近衛にいた頃はむしろ 可愛がっていた副官だったように思う。
    (今思い出しても ムカツクが)結婚そのものが嫌なのか。
    そうかもしれないがこれから先の事を思うと 何が本当に良いのかわからなかった。
    女が一人で生きられるほど これからは甘くはないだろう。

    さんざん抵抗しても ジェローデルは諦めないので オスカルは気弱になってきているようだ。
    おれの背中に張り付いてきた。

    これは”もうだめ”のサイン。

    けれど今のおれはもう抱きしめてやる事は出来ない。
    背中から感じられる気配から そうとう まいっているなと思った。
    困ったおれは昔も困った時に使った手を思い出した。
    静かに心を込めて歌い始める。母さんの子守歌 歌いながら思い出していた。
    あれはお屋敷にきて少しした頃だ。お互い住んでいた世界が違うので最初はとまどう事も多かった。
    けれどしょせんは子供すぐに仲良くなれた。
    そうなるとオスカルはおれを遠慮なく引っ張りまわすようになった。

    「こいっ アンドレ」
    それが口癖になるほど。
    オスカルはよほど楽しかったのか 夜になっても興奮して寝つけない事がよくあった。
    ベッドに入っても何か思いつくと抜け出して おれのところへ来てしまう。
    おれはもう8歳になっていたので 男の使用人の大部屋にいた。寝間着のまま
    「アンドレ 良いことを思いついたぞ。明日はこれをするぞ」
    頬を上気して目を輝かせて ノックもしないで飛び込んでくるお嬢さまに
    同室の使用人達はいくら子供とはいえ迷惑していた。
    おばあちゃんもこれではいけないと思い 夜オスカルに飲み物を持って行く時に
    おれを連れていくようになった。

    オスカルの部屋でオスカルの気の済むまで話をする。
    きょうは楽しかったな 明日はどんな遊びをしよう。
    オスカルはひとしきり満足すると 落ち着いて眠れるようになった。
    それが夜のミーティングの始まりだ。
    それでも怖い話を聞いた時や あらしの日などは怖がってなかなかおれを放してくれなかった。
    困ったおれは母さんが歌ってくれた歌を思い出して歌ってみた。
    穏やかで優しいその歌をオスカルも気にいってくれた。
    気持ちが落ち着くまで何度でも歌ってやった。

    今背中にいるオスカルはもう眠ってしまったようだ。
    それでもおれは歌い続けた。歌をやめてしまったら おれはオスカルを離さなきゃいけない。

    もう少しだけ もう少しだけ このままで。

    おれはオスカルを誰にも渡したくなかった。
    しかし そんな事できないし オスカルに対して責任がとれるほどの力もない。
    これはおれのわがままだ。オスカルのためを思ったら笑って引き下がらなければ。
    けれどこんな苦しそうなおまえを見ると 本当にそれがおまえのためかわからなくなる。

    アンドレの歌声はいつのまにか 涙声になっていたが オスカルの耳には届かなかった。

    (つづく)
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