サベルヌに想いを馳せて…4

    「アンドレ、サベルヌではなにかありましたか?」
    ジェローデルの問いかけの真意をアンドレは正確に理解した。
    アンドレとジェローデルもまた、ずいぶん長い事お互いを意識してきたのだから。

    何と答えたものか アンドレには分からなかった。
    ジェローデルが聞いているのは事務的なサベルヌの報告ではなく、
    いつもと違うオスカルの様子の理由なのだから。

    先ほどまでの微笑みが消え、真剣なまなざしで自分を見つめるジェローデルの顔を
    アンドレはそっと見てから膝の上で安心しきって眠るオスカルの顔に視線を落とした。

    「実はおれにも正確なことは分からない。
    たぶんジャンヌ達の死に責任を感じているんじゃないのかな?」
    「彼らの死については 報告を受けていますが 
    立ち会ったのは君と隊長だけだったのでしょう」
    「ああ…」
    アンドレはその時の様子を出来るだけ 私情を入れず、
    事実だけを伝えるように気をつけながら話した。
    「なるほど、そうであれば隊長が気にされるのも無理はない」
    ジェローデルのこの言葉にアンドレの目が一瞬大きく開いた。

    アンドレは最初、ジャンヌ達の死をオスカルが気にするとは思っていなかった。
    それなのに、ジェローデルは状況説明だけで オスカルが気に病むと予測できたというのだ。

    「どうして、わかっ…」
    『どうしてわかった』と言いかけた言葉は大きく揺れた馬車の振動に遮られた。
    街道からジャルジェ家に続く私道に入ったようだ。もうすぐ着くのだろう。

    「オスカル、おーい、オスカル」
    膝の上の彼女は何時の間にか深く寝入ってしまい起きる気配がない。
    馬車が止まると、ジェローデルはひとまずオスカルを抱き、
    アンドレを先に下ろして再び彼の腕に彼女を返した。

    「ありがとう。ジェローデル大尉」
    「君も大変だね。身に余る職というのは」
    アンドレのこめかみがわずかに引きつる。
    「主人の信頼に応えているまででございます」
    わざと ツンと慇懃に応えてやる。
    今度はジェローデルがムッとしたがすぐに笑顔になった。
    「まっ たぶん、無理でしょうが 
    明日の朝はなるべくゆっくり寝かせておいて差し上げてほしい。
    近衛の方はわたしが何とかしておきますから」
    「はっはっ…おれもそう願いたいんだが…」
    今度はアンドレもいつもの口調で返した。
    あどけないとも思えるくらい可愛い寝顔のこの女性が 
    そんな自分たちの気遣いを意に介さないことくらい十分わかってはいるのだが、
    それでもなんとか休ませてあげたいと二人は思う。

    ふいにアンドレの腕の中でオスカルが身を震わせて起きた。
    冷え切っていた外気が彼女の眠りを覚ましてしまったらしい。それとも…

    "おやおや、アンドレに起こされた時は起きなかったのに"

    心の中でだけ、ジェローデルはクスクス笑った。

    ジェローデルの瞳は穏やかな笑みを浮かべている。

    その瞳には、いままでだらりとしていた腕が力なく持ち上がり、
    アンドレの肩にかかるのが映っている。
    少しその手に力がこもり彼女が
    彼に身を摺り寄せるように体を起こすのも。

    ジェローデルは湧き上がる心のさざ波をその瞳に少しも反映させることはない。

    オスカルはアンドレの腕から降りるとジェローデルを振り返り礼を言った。
    「ありがとう。ジェローデル大尉。助かったよ」
    「たいしたことではありません。隊長。それではおやすみなさい」
    「おやすみ」
    僅かばかりの荷物は、三人が会話をしているうちに下ろし終えていた。
    ジェローデルが軽く馬車の天井を小突くとゆっくり動き出した。

    その車内で、ジェローデルはほんの束の間抱いた女性の残触を思い出していた。
    確かに女性としては大柄である。それでも自分やアンドレのような男から見れば十分にか細い。
    軍隊には男相手でも軽々肩に担いで行軍できるぐらいたくましい猛者がゴロゴロしている。
    そんな軍人の自分達から見れば彼女などは羽のように軽くさえ感じられる。
    抱き上げた彼女からは明らかに男とは違う匂いがした。ぐったりと力なく預けられた体は 
    男に守らずにはおけない気持ちを起こさせるのに十分過ぎるものであった。

    ほんの数十秒抱き上げただけで そう感じてしまうくらいなのだ。
    ずっと その役目を担ってきた男が何もかも

    自分の人生のすべてをかけて 

    守ろうとしてしまうのは当然なのだろう。

    ジェローデルは目を伏せる。確かに自分は彼女にとって特別な存在にはなれた。
    もし、同乗していたのが他の者であったなら、彼女は横になったりはしないだろう。

    だが それは唯一無二の存在と言うわけではないのだ。

    ジェローデルはジャルジェ家の私道から街道に出る手前で御者に告げた。
    「ベルサイユの近衛へ」
    御者は少し驚いたようだが 言いかえすことはなかった。
    この坊ちゃまの気性をジェローデル家の者はよく心得ている。

    (つづく)

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