サベルヌに想いを馳せて…8

    彼女が歩む道を わたしは守り続けている。
    アンドレと二人でそれぞれのやり方で。
    彼もわたしも彼女にとって 特別で大切な存在ではある。

    それなのに、彼女がとるのはアンドレの腕だけなのだ。

    先ほどの白い手が脳裡に甦る。

    それはまぎれもない女性の手。

    いかに武術を極めていようとも、わたしにとっては愛しい女性の手にしか見えない。

    その手はいつも目の前をすり抜け、別の男の手をとる。

    分かってはいる。もう何千、何万、と見続けてきた。

    それでも、慣れることなく胸は痛むのだ。

    夕暮の光に包まれた道を、目の前のアンドレの背を追いかける。
    さらにその前には黄金色に輝くオスカルの姿がある。
    アンドレに追いつくと彼はこちらをちらっと悲しげに見たが
    すぐに前のオスカルに視線を戻す。

    彼を追い越し、彼女の横に付き声をかける。
    「今日はもうお帰りください。サベルヌの疲れが抜けていないのでしょう」
    「はは…年寄りのお偉方と一緒にするな。これぐらいのことで休んでなぞいられるか」
    「いやとは言わせませんよ。隊長のお顔の色がすぐれませんと、近衛の士気にかかわります」
    「なんだ、わたしはそんな酷い顔をしているか?」
    「ええ、体調管理は軍人として大切な事です。
    今回の行軍に従軍した兵士に休みを取らせたのは隊長自身が
    この遠征が通常の物ではないのだと分かっていらっしゃるからなのでしょう?ならば…」
    まだまだ、続きそうな副官の説得にオスカルは途中で遮った。
    「わかった。わかった。今日は帰るとしよう。だが、兵士の勤務表を作成し直さないと」
    「それは、もうわたしがやっておきました」
    「では、確認を」
    「明日になさってください。アンドレ」
    ジェローデルはオスカルの返事を聞かず、後ろを付いてくるアンドレを振り返る。
    「隊長はお帰りです。馬車の用意を」
    アンドレは頑としたジェローデルとまだ何か言いたげなオスカルを交互に見ていたが
    「あきらめろ、オスカル」
    そう言うと、厩舎の方に走り出した。

    残された二人は並んで歩きながら、やはり、仕事の話を続けた。
    「今回のジャンヌの騒動で、いかに民衆の気持ちが王室から離れているのか良く分かった」
    「そうですね。我々の今までの認識以上に悪いようです」
    「宮殿警備を強化する必要があるな」
    「はい、フランス衛兵隊との連携も考えなければいけませんね。
    民衆が宮殿に忍び込むなら我々よりも先に民衆と相対する可能性が高いですから」
    「そうだな。今、フランス衛兵隊は確か隊長が不在とか」
    「はい。この大事な時に。隊長不在が隊の風紀を乱してしまっているようです。
    それでますます厄介な役職になってしまい、人事に苦慮しているとか」
    「そうだな。フランス第一連隊であり、この宮殿を実質警備している中心部隊だ。
    誰でもいいと言う訳にもいかないだろうからな」
    ふうと息をついて、案ずる姿がジェローデルには痛々しい。
    先ほど、報告書を出してきた軍のお偉いさん方こそ、こうしたことを案じ、
    対策を練らねばならないはずなのに、彼らがやっていることは 派閥争いばかりなのだ。

    "あなたがそんなに苦しむことはないのですよ。
    どうか、わたしに全て任せてあなたは、

    あなたは…"

    隣を歩きながら ジェローデルの胸は痛み続けていた。

    結局オスカルはアンドレが馬車の用意が出来たと司令官室に呼びに来るまで、
    勤務表に目を通すと言ってきかなかった。
    渋々、書類を渡すと、ほとんど見ないうちにアンドレが呼びに来た。
    ジェローデルはすぐさまオスカルの手から勤務表を取り上げた。
    「さあ、お約束ですよ。お帰りください」
    「仕事を中途半端にはしたくない」
    「では、ここまで」
    ジェローデルは書類をテーブルに置いて 名簿の切れ目を指差した。
    それはさり気ないようで 断固たる彼の意思を示しているようであった。

    こうなってはこの副官にこれ以上の譲歩が望めないことは、
    長い付き合いのオスカルには分かっている。

    大人しく、彼の決めたところまで目を通した。
    それが済む頃にはちょうどアンドレもオスカルの帰り支度を済ませていて、
    後は彼女にコートを着せるだけであった。

    (つづく)

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