サベルヌに想いを馳せて…9

    アンドレがコートを広げてオスカルの背後に立つ。
    そのコートにオスカルが袖を入れると彼はそっとコートを彼女の肩に下ろす。

    従者なら皆主人にそのように上着を着せる。

    当たり前の光景だ。

    "それなのに何故?わたしはうらやましいと感じるのか"

    オスカルにコートを着せたことは副官という立場上、何度かある。
    そんな時、触れるほど近く、無防備な背後に立ち、思わず抱きしめたくなる。
    着せ終わると、オスカルは「ありがとう」とちょっと振り返り言ってくださる。

    それは、アンドレが着せた時とは違う感じなのだ。
    もちろん、雇っているご自分の従者と軍に勤務する副官に対して同じ態度という方が
    不自然なことではあるのだが。

    そういうことではない。

    そんな違いではないのだ。

    何か、言葉では言い表せない 何かが違う。

    馬車に押し込むように、オスカルを乗せると馬車を発進させた。

    遠ざかる馬車。

    "あの中では、また、アンドレの膝に甘えているのでしょうか?"

    それとも…

    悔しいが、自分はそういう役回りにはなれなかった。
    それでも、傍で 彼女を守り続けずにはいられないのだ。

    自分が長男に生まれなかったのも
    こういう運命だったからだとさえこの頃は思う。

    オスカルだけを見つめていたら、いつの間にか恋人の一人もいないままこの年になった。
    それは色恋こそが人生の宮廷人から見れば随分変わり者ということになるらしい。

    "わたしにとってはずいぶん有意義な人生なのですが"

    やりがいのある仕事。
    それを共に成し遂げる仲間達。
    そして、時折、チクチクやり合う恋敵。

    " なかなか良いものではないですか "

    明日の生活を憂う程、困っているわけではない。
    それだけでも、今日のフランスでは上等なことだ。
    金を持っていても、退屈しながら不健康な遊びに興じる気などさらさらない。
    汗を流し、己を鍛え、社会の中で意味のある仕事をする。
    その方がずっと素晴らしいと感じる。

    そう、自分は誰に何と思われようがこの人生に満足している。

    その上 天は素晴らしい女性と巡り合せてくださった。

    命を懸けて 生涯愛せる相手を見つけられる人間がどれほどいるというのだろう?

    それを見つけられたことこそ、幸運といわずして何というのか。

    その女性と結ばれなくとも、それはやはり幸運なのだと思う。

    愛した女性は生き生きと働き、輝いていた。
    そんな彼女を愛した。

    だから、彼女と共に働くことはこのうえない幸せ。
    むしろ、無理に女性らしい生き方を強いてこの輝きを消してしまうなどとは考えられない。

    もちろん、愛されたいと ずっと 今もずっと 願ってはいる。

    彼女に近しい男に嫉妬してしまう気持ちもある。

    "それでも 幸せなのですよ。困ったことに"

    彼女の輝きを傍で支え続け共に歩む。
    そんな人生なのだ。

    オスカルが稀有な存在で、普通の女性の型に収まりきれないのであれば
    それを愛する男達も通常の男性の型に収まるはずはない。

    自分も、アンドレも

    生涯、彼女を縛ることも 子を産ませることも、望まず、
    ただひたすらに守り続ける。それが宿命。

    ただ、この頃、不安になる時がある。
    ジャンヌ事件に象徴されるように 近衛を 貴族を 取り巻く環境は厳しくなってきている。
    それは今後ますます悪化するだろう。

    "その時、わたしは彼女を守りきれるだろうか?"

    アンドレは確かに彼女の不安定な心を良く支えている。
    だが、今日のように、お歴々への報告の折などは室内に入ることさえできはせず、
    廊下で待たねばならない。それが彼の身分。
    所詮伯爵令嬢と肩を並べ、同じ道を歩けはしないのだ。
    それは社会的な何かから 彼女を守ることは事実上不可能ということ。

    それはわたしの役目だ。

    けれどそれも限界がある。
    所詮、自分も偉そうなことは言えない。立場は彼女の部下でしかないからだ。
    望めば、もっと出世も出来たが、それでは彼女のそばにはいられない。

    それにそんな事ではないのだ。
    それで守れるのであれば彼女には父、ジャルジェ将軍がいるではないか。
    さらに彼女自身、最高権力者の国王夫妻の寵愛を受けている。

    これから来る危機はそんなことでは守れないのだ。

    彼女の全てに同行することが許され

    彼女の全てに権限を持ち

    運命を共にする

    そんな存在。

    "あなたはそんな者、望みはしないのかもしれませんが"

    望んでくれれば 自分は何時でもそうなる覚悟がある。
    望んでくれれば そうなれる立場でもある。

    これは アンドレには出来ないこと。

    もし、必要ならば、彼女が望むと望まないとに関わらず、
    自分がその役目を担い彼女を守らねばならない。
    そう、ジェローデルは覚悟を決めていた。

    "わたしはその時が来るのを恐れているのでしょうか?
    それとも望んでいるのでしょうか?"

    答えてくれるものなどいない。

    日はすでに落ちきり、星が瞬き始めていた。

    仕事のメドもついたし、彼も今日は屋敷に戻るつもりである。
    オスカル同様、ジェローデルにとっても体調管理は職務のうち。
    彼は常にオスカルのために万全でなければいけないと心がけている。

    そんな彼が彼女と運命を共にする存在として名乗りを上げる日は徐々に近づいていた。

    FIN

    「サベルヌに想いを馳せて…」は今回が最終回です。
    お読みいただきありがとうございました。

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