白ばらとアブラムシとテントウムシ-4-

    近衛の閲兵が終わると従僕達がそれぞれの主人のもとに付き従った。
    今日の軍務はこれが最後だった。
    あの従僕も連隊長のもとにいた。そのそばにはオスカルもいる。
    ヴィクトールは気が気ではない。何か楽しそうに談笑しているのを見ぬふりして見ていた。
    やがてオスカルが一礼をして連隊長のもとを辞した。

    なっ?

    こともあろうにあの黒髪の従僕は連隊長ではなく オスカルに付いて行くではないか?!

    「どういうことだ・・・」
    思わず口に出してしまった。それを横にいた同僚に聞かれた。
    「何かあったか?」
    「いや・・・別にただ あの従者が・・・」
    動揺して言わなくていい事を言ってしまった。同僚は ははんと笑った。
    「あの男 確かにいい男だが 手は出さないほうがいいぜ。
    ジャルジェ将軍が娘の護衛につけているんだ。それで近衛のお偉いさんとも仲がいい。
    最近は王太子殿下にも気にいられているらしい。」

    "ジャルジェ将軍の娘。やはり女性なのか。
    それにしても護衛だって!あいつが一番危険なんじゃないのか!
    さっきのあいつの目は明らかに 女を見る男の目 だった。"

    同僚の言う言葉の意味に気づかず ヴィクトールは夢中でオスカルを見ていた。
    その熱い視線が見つめる先がオスカルではなく 
    黒髪の従者の方だと同僚が勘違いしているとも知らずに。

    「なんだ おまえ知らなかったのか。」
    夕食替わりの鳥手羽を暖炉の前で ワイン片手に頬張りながら 
    一番上の兄アルベールが教えてくれた。
    「ジャルジェ将軍には 男の子が産まれなかったんだよ。それで 末娘が生まれた時 
    ジャルジェ夫人のお産が重くて もう子供は望めないと言われて 
    その娘を男にしちゃったって話さ。」
    「そんな・・・」
    「可笑しいだろ。何もそんなことしなくても いくらでも養子のきてはあるだろうし 
    どうしても自分の血を引いた子がいいなら 適当にどこかで産ませて養子にすりゃいいのさ。
    女を男にするなんて 教会に睨まれるだけだ。」
    兄がそう言って笑うのが ヴィクトールは何かもやもや嫌だった。
    嫌だが確かに間違ってはいない気がする。
    手にした焼き鳥に わざと乱暴にヴィクトールは齧りついて喰いちぎった。
    そんな様子の彼を兄は意外そうに眺め 目を細めた。

    「ヴィクトール。しかし よくオスカルが女だと分かったな。」
    「分かります。分からない方がどうかしている。あんな綺麗な男がいますか」
    ヴィクトールは手の甲で口に付いた肉汁を拭いた。
    兄は嬉しそうにヴィクトールの口や手をハンカチで拭いてやった。
    「いるさ。いくらでも綺麗な男なんて。」
    「でも 分かったんだ!わたしには!」
    ムキになって自分を拭く兄の手を払った。 あはは・・兄は笑って手を引いた。
    「わかった わかった 確かに彼女は美人だ。」
    そう素直に出られると今度はムキになった自分が恥ずかしくなって 
    また乱暴に肉を歯で引きちぎった。

    「さて そろそろ わたしは行くよ。愛しの伯爵夫人が待っているからね。」
    立ち上がった兄はもう一度腰をかがめて 弟の頬を包むように撫ぜた。
    「そんな風に気持ちを出してくれて嬉しいよ。わたしはいつでもおまえを歓迎している。」
    「何です?気持ち悪い」
    言いながらも本当はさほどいやではなかった。

    男として育てられている?

    それを彼女自身はどう感じているのだろう?

    今日見る限り 嫌々やっている感じには見えなかった。

    誇らしげにさえ 見えた。

    ならば 彼女はそれを受け入れている?

    分からない。分からない。

    分かっているのは オスカルが美しいということ。

    分かっているのは もっと知りたいということ。

    兄のいなくなった暖炉の前で 残りの肉を平らげて 
    兄がくれたハンカチで口の周りを拭いてワインを流し込んだ。

    じいやがやって来て暖炉の日をかき混ぜた。
    「いかがでしたか?ヴィクトールさま。お兄様とは楽しく過ごされましたか?」
    「別に それよりじい。もしジャルジェ家のオスカルについて 何か知っていたら教えてよ。」
    じいやは意外と物知りだった。
    いや オスカルはベルサイユでは有名人だったということかもしれない。
    まだ この地に住み始めて日の浅い彼でも色々知りうるぐらいに。

    (つづく)
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