白ばらとアブラムシとテントウムシ-5-

    オスカルに出会ってからヴィクトールの生活は一変した。
    気の進まなかったベルサイユでの暮らしが生き生きし始めた。
    近衛に出仕するのが楽しくて仕方なかった。

    もちろん 近衛の重鎮ジャルジェ家の跡取りオスカルは
    自分とひとつしか年が違わないとはいえ 連隊長付きの大尉。 
    新兵で海軍派のジェローデル家のヴィクトールとは接点はあまりなかった。
    それでも時折 垣間見る純白の軍服を着たオスカルは 
    さながら天使のようでヴィクトールを幸せにした。

    一つ見方が変われば他も良く見えるもの。
    ヴィクトールにとってオスカル以外にも楽しみが見つかった。
    剣の稽古である。今までは田舎で 剣は教師と二人きりで学んでいた。
    ここでは実に沢山の相手がいる。しかも強い。さらに実際戦場で戦った者もかなりいた。
    彼らから実践的な剣術を学ぶのも 戦場の武勇伝を聴くのも楽しかった。

    銃にしても最新式の物を存分に試すことが出来た。
    知識を得ることも田舎ではお目にかかれないような 最新の書物を簡単に手に入れる事が可能だ。

    ただ それでも 嫌というより煩わしいことはあった。
    ベルサイユの臭気には慣れたが ベルサイユの習慣には馴染め無いものもあった。

    遠くからねっとりした 視線を感じる。

    "ああ またか・・・"

    ヴィクトールは肩でため息をついた。一人前に鬘を被った可愛らしい子供の小姓が 
    薔薇の花を一輪携えて近づいてくる。
    「ムッシュ 主人がこれをお渡しするようにと」
    「ありがとう」
    ヴィクトールは柔らかく優雅に微笑んだ。

    薔薇にはメッセージが付いている。一瞥して彼は薔薇の花びらを一枚そっと抜き取り 
    形を確かめると少しだけ切れ目を入れた。それを小姓に渡して小声で何やら囁いた。
    もちろん小姓のお仕着せのポケットに コインを入れるのを忘れたりはしない。
    小姓はその感触に嬉しそうな顔をした。
    「わかりました。ムッシュ主人に伝えます。」

    小姓は自分の主人である伯爵夫人にこう伝えた。
    「奥様。ムッシュはこうお伝えするようにと。
    "今宵 わたくしの現身は王に仕えなければなりませんが 
    心はこの花びらのように傷つきながら ひらひらとあなたを想って漂うでしょう。"」
    小姓から渡されたハートの形の花びらを伯爵夫人は眺め 
    その目線を意味あり気にヴィクトールの方に向けた。

    ヴィクトールは一瞬ゾゾッと鳥肌が立ったが 耐えて優雅に真紅の薔薇の花の香を嗅ぐ振りをし 
    切なげで泣きそうな顔をした。何度も鏡の前で練習をした顔だ。
    それを見ると 伯爵夫人は満足気に立ち去ってくれた。

    ヴィクトールはやれやれと歩き出し 角を曲がると花を放り捨てた。

    "まったく もって ばかばかしい"

    これほど恵まれた環境でありながら ここの連中の頭の中は下品な欲望でいっぱいなのか。
    どこもかしこも そんなやつらばかりだ。
    始めはよく分からず 馬鹿正直に丁寧な断りを述べてしまった。
    それで兄に迷惑をかけたこともあった。

    "オスカルさまは 違う。"

    彼女だけは 穢れなく輝いている。純白の近衛服に輝くブロンドの髪。神話そのものの世界。
    そこに存在するだけでいい。それだけでいい。

    誰も穢してはならない。

    彼女にはいつも 真っ白でいてほしい。

    気高くあってほしい。

    手に入れようなんて思ってもいけない。

    ただ ただ 

    透き通ったその双の瞳に
    わたくしを映して下さったら

    その美しい声で
    わたくしを呼んでくださったら

    それだけで いいのに!!

    だから あの従僕が許せない。あんな汚らわしい目をして 彼女の傍にいるのが

    許せない!!!

    (つづく)
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