白ばらとアブラムシとテントウムシ-6-

    屋敷に戻ると ヴィクトールは庭に出て バラを愛でた。ここ数日はいつもこうである。

    「また、その白ばらですか・・・」
    少し呆れた顔して ロミが声をかけた。
    「庭には他にも綺麗な花も緑もありますよ」
    「いいんだ。わたしはこの花が気にいっている。」
    ヴィクトールはその花を手折ることなく 愛おしそうに指をふんわり曲げて花を包み顔をよせた。

    甘くそれでいて少しすっとする匂い。花びらが外側に反り返り先が尖った形になっている。
    いわゆる剣弁の花弁だ。色はあくまで白い。
    そしてその中心には暖か味のある黄色い花芯が隠されている。

    "まるで あの方のようだ・・・"

    ヴィクトールはうっとりしながら白ばらにくちづけた。

    「あっ!!!」

    突然、ロミが叫んだ。
    「なんだ?!」
    ヴィクトールは一気に現実に引き戻された気がして驚いてロミを見た。
    「すみません。ヴィクトールさま。アブラムシを見つけたものですから」
    申し訳なさそうにしているロミが答えた。
    彼の手にしているばらの蕾には びっしり黄緑色の小さな虫が付いている。
    「なんだ 虫くらい。しかもそんな小さくて可愛い虫で。」
    夢心地だったのが照れ臭いやらはずかしいやらで 複雑な苛立ちを憶え、
    ヴィクトールは少々 ぶっきらぼうに言った。
    そんなヴィクトールの様子にお構いなしで ロミは蕾を手に取り調べている。
    「可愛いだなんて とんでもない!
    こいつらはあっという間に増えて 蕾やら新芽やらをダメにしてしまうんです。」
    「繁殖力が強いんだな。」

    "わたしの大事な オスカルさまが・・・"

    とは口には出せなかったが ヴィクトールはちょっとブルーになった。

    「でもご安心ください。」
    ロミはフフンと胸を張って 辺りを探した。
    「いた いた」
    嬉しそうになにやら捕まえて 手の中に大事に抱えてきた。

    「この間 酒場で知り合った人に もらったんです。」
    そう言うと手を開いた。中には赤い背中に黒い丸い模様のついた 
    これまた小さくて可愛い虫がいた。
    「テントウムシか」
    「ええ こいつがアブラムシを食べてくれるんです。」
    そう言うとアブラムシの傍に放した。するとむしゃむしゃ食べ始めた。

    「おお これは凄いな。」
    「でしょ。」
    ロミは嬉しそうだ。
    「なるべく おれは農薬は使いたくないんです。これをくれた人のご主人さまは
    ばらを食べる人なんだそうで やはり薬を使わずばらを育てているんだとか。
    ばらはお茶やジャムにもできますからね。なんでもプロヴァンスの出身だそうです。」
    「ふーん。」
    まだ ヴィクトールはアブラムシとテントウムシを見ていた。
    テントウムシはアブラムシをしっかとくわえ せわしなく口を動かしている。
    時々前足でアブラムシの体を抑えたりもするが 
    意外なほどアブラムシはテントウムシに大人しく食われてしまった。

    "可愛いがまだ弱い新芽や蕾に 大勢でかかるとは何てやつらだ。アブラムシめ。
    そのくせよわっちく抵抗もできず 仲間が食べられても 知らんぷりか。
    その点テントウムシはいいな。白ばらを害虫から守る強い騎士だな。"

    そう思ってみると 何やらテントウムシの背中の甲羅が甲冑のようにも感じられ頼もしい。
    その姿は自分に重ねられ アブラムシはあのいやらしい従僕に思えてきた。

    "そうだ あいつ。可愛くて無害で大人しそうな顔をして 実はとんでもない害虫だ。"

    いつか わたしが白ばらについた害虫を退治してやろう。そう思った。
    「ヴィクトールさま。テントウムシは幼虫でもアブラムシを食べてくれるんですよ。」
    ロミがまた 手をまあるく合わせてやってきた。
    「どれ。」
    テントウムシの子供ならさぞ 愛らしかろう。

    「こいつです。」
    「うっ・・・」
    それは親とは似ても似つかぬ長い体で 全体的に黒く脇に入った赤いラインが毒々しい。
    自分をテントウムシに例えたことをヴィクトールは少し後悔した。

    「そうだ。ヴィクトールさま。今度ベルサイユ宮殿の植物園に連れて行ってくださいよ。
    珍しい植物があるんでしょう。でっかい温室も」
    「そうなのか」
    「テントウムシをくれた人が言ってました。」
    「まだ わたしも宮殿には慣れてないんだ。そのうち連れて行ってやるよ。」
    「楽しみにしています。」
    ロミはアブラムシを潰しながら言った。

    「そう言えば ロミ いつの間に酒場になんか行ったんだ。」
    「本館の使用人の方達に誘ってもらったんです。おかげで仲良くなれました。」
    「そうか。良かったな」
    言葉とは裏腹にちょっと面白くないヴィクトールだった。
    ロミはそんな様子の気付かず せっせとアブラムシを潰していた。

    さて 近衛のアブラムシ君だが いろいろ分かってきた。
    オスカルさまとは幼友達のように育ったこと 長じてそのまま従者になったこと。
    ジャルジェ将軍の計らいでオスカルさまと一緒に剣の稽古を 
    近衛の隊士につけてもらっていたことなど。

    そして何故か 王太子殿下と仲が良い事。

    「ジェローデル少尉。王太子殿下を探してきてくれ。
    もうすぐお茶会の時間なのにいらっしゃらない。」
    隊長に言われジェローデルは駆けだした。
    お付きの者を遠ざけて 王太子殿下が一人で散歩なさるのは珍しいことではない。
    大抵は律儀に時間には戻られるので 皆はあまり心配もしていない。
    それにいくらおひとりとはいえ 宮殿内はあちらこちらに衛兵がおり 
    主だった扉には扉番が付いている。
    そこかしこに従僕も立っている。なにかあっても誰かがすぐに駆けつけてくるはずだ。
    そんな中で近習が行先をつかめないとすると・・・
    「今日は天気もいいし あそこだな。」
    ジェローデルは宮殿の屋上を目指した。

    広々とした屋上に出るとはたして 王太子の丸い背中が見えた。
    そして隣に黒い髪のアブラムシがちょこんと座っていた。
    ヴィクトールは少々イライラした気分だったが 押さえて
    「殿下。お茶のお時間にございます。お戻りください。」
    そう声をかけた。
    「おお もうそんな時間か。こんな所まで呼びに来てもらってすまなかったね。ジェローデル。」
    「とんでもございません。殿下」
    にこやかに王太子に応え 後ろから付いてくる アブラムシに小声で
    「君がちゃんと時間を見てなきゃだめじゃないか」
    と睨みつけた。彼は肩を少しすぼめただけだった。
    王太子が時間を忘れる時 アンドレが一緒の事が多い。

    隊に戻ると隊長に
    「よく 見つけたな。助かるよ。年が近いせいかな。」
    そう言われた。いつのまにかヴィクトールは"王太子殿下捜索係"みたく思われているらしい。

    "別に年のせいではない。考えて探しているだけだ。"

    そう言いたかったが黙って礼をして下がった。

    しかし あのアブラムシ。何だってあんなに誰も彼もと 仲が良いんだ。
    近衛や王太子だけではない。
    あちこちで楽しそうにしゃべったり つるんだりしている。

    (つづく)
    スポンサーサイト
    sidetitle最新記事sidetitle
    sidetitleプロフィールsidetitle

    青林

    Author:青林
    ”ベルサイユのばら”の二次創作サイトを作っています。ぜひ遊びに来て下さいね。

    青林サイトへ

    ただいま、コメントへのお返事は基本的にはしておりませんが、頂いたコメントは大切に読ませていただいています。ありがとうございます。

    sidetitleカレンダーsidetitle
    07 | 2017/08 | 09
    - - 1 2 3 4 5
    6 7 8 9 10 11 12
    13 14 15 16 17 18 19
    20 21 22 23 24 25 26
    27 28 29 30 31 - -
    sidetitleカテゴリsidetitle
    sidetitleリンクsidetitle
    sidetitle月別アーカイブsidetitle
    sidetitle検索フォームsidetitle
    sidetitleQRコードsidetitle
    QR