白ばらとアブラムシとテントウムシ-9-

    <アブラムシ君の憂鬱>

    「なあ オスカル おれ何かしたかな?」
    「なんだ。」
    オスカルは読んでいる本から 目を離さず返事をした。
    「おれさ ジェローデル少尉に睨まれている気がするんだよね。」

    「はあ?」
    オスカルは顔をあげた。アンドレは顎に手を当てて 思い出すように
    「なんか 視線感じるなと思うと 少尉がこっち見てたりするんだよね。」
    「気のせいじゃないのか? 彼とは話すことなんかないだろ。」
    「まぁな 今までだって 数える位しかしゃべったことないが」

    「もしかして お前に気があるんじゃないのか。」
    オスカルが本の陰から にやりと笑った。
    「奴は男色だという噂だぞ」
    アンドレはぞぞっとした。
    「悪い冗談はよせ!」
    「はっはっ あんまり気にするな。彼は変わり者だそうだし」
    そういうとオスカルはまた 本を読み始めた。アンドレはため息をついてテーブルに突っ伏した。

    "変わり者か そう言えば彼が近衛に来たばかりの頃だったか・・・"

    近衛の執務室でオスカルを待っていると ジェローデルが連隊長に挨拶にきた。
    たまたま 連隊長に頼まれてお茶の支度をしているところだったので アンドレがお茶を出した。
    連隊長にももちろん従僕がついているが 
    アンドレのお茶の入れ方が気にいられて時々頼まれていた。

    入って来たジェローデルを見てすぐに分かった。
    自分もベルサイユ宮殿に伺候したばかりの頃 同じ思いをしたからだ。
    お茶を出し終えると アンドレは執務室を出て 植物園に急いだ。
    顔馴染の植物園の職員に声をかけ ミントを分けてもらった。
    麻ひもで括って束ねたが可愛くないので 自分のリボンを使ってその上から結んだ。

    戻るとジェローデルはまだ連隊長と談笑をしていた。
    テーブルを見ると 何度か口元に運んでいたはずの紅茶は あまり減っていなかった。
    本来なら冷めてしまったお茶を入れ替えるところだが アンドレには思い当ることがあった。

    "はは~ん。彼も猫舌なのか"

    オスカルも猫舌なので 熱いものは苦手だ。けれど猫舌だと皆に知られるのが嫌らしい。
    「だって 熱いのが苦手だなんて 子供みたいじゃないか」
    そう言って隠している。

    "別に恥ずかしい事じゃないのに"

    アンドレはそう思っているのだが 言えば怒るので黙って 少しぬるめのお茶を入れてやっている。
    案の定 冷めた頃ジェローデルは美味しそうにお茶を飲みほした。
    帰り際にミントのブーケを渡すと 素直に喜んでくれた。

    その数日後 近衛の兵舎から出てきた彼を見かけた。
    自分の事など憶えているわけがないと思っていたので 声をかけられたのは意外だった。

    このベルサイユにおいて 従僕など調度品と同じ。
    綺麗で派手な服を着せられ あちこちに置かれる。
    一応扉番だの給仕がかりだの役目はあっても たいていはみんな気にもとめない。
    さらに自分のような従者はアクセサリーにもなっている。
    だから 見栄えのよい者や自慢できるような者が選ばれる。
    たとえば 黒人の従者に派手な羽飾りをつけて連れ歩いている貴族もいる。

    そんなベルサイユで一度会ったきりの従僕を憶えているばかりか 
    対人間として礼を言ってくれる彼に驚いたのだ。

    "まだ ベルサイユに着て日が浅いからかもしれない"

    そうも思う。普通ならあのミントのブーケはアンドレからではなく 
    連隊長から送られたと解釈するのが普通だ。
    自分ごときが客人に贈り物など出過ぎている。
    けれど彼の顔を見ていたら助けてやりたくなった。

    "よけいなことをし過ぎるのがおれの悪いクセだ"

    自分でも分かっているがついやってしまう。従僕としては決して良い事ではない。
    あの場合もアンドレはただ手渡すだけで 
    連隊長から言葉を添えて頂くのが筋なのだが 打ち合わせるタイミングがなかった。
    連隊長は気さくな方だし 相手はまだ子供のようなので自分で言葉を添えて渡した。

    再会して礼を言われた時も 迷ったが相手に合わせて自分からの贈り物で通してしまった。
    下手に連隊長からと言って 後で連隊長に礼を言われるとややこしい事になりそうだからだ。

    急ぎ足で去って行く彼にこの時は悪い気はしなかった。
    むしろ 優等生ぽいのにどこか強がって 自分の純真さを恥ずかしがって隠しているような

    "誰かさんに似ている"

    彼を可愛いとさえ思っていた。

    けれどその後 何故だか 変な視線を感じるようになった。
    睨まれているかと思うと 時には真っ赤になってそっぷを向いたり 
    顔は違う方を向いているのに 目だけこっちを見ていたり。

    "まさか 本当におれに気があるのか"

    "それとも オスカルに まさか?"

    気になったので仲良くなったジェローデル家の庭師見習いのロミに尋ねてみたが
    「気のせいじゃない」
    と苦笑いされた。
    そうかなぁと 思って気にしないようにしていたが いい気はしない。
    だから彼がオスカルの副官になった時 正直嫌だった。 その頃には彼を嫌いになっていたから。

    そしてある日 彼に呼び止められた。

    「アンドレ君。待ちたまえ。」

    FIN

    "剣戟の狭間で"に続きます 明後日から連載スタートです。
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    ただいま、コメントへのお返事は基本的にはしておりませんが、頂いたコメントは大切に読ませていただいています。ありがとうございます。

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